雑談コラム一覧

物忘れをどうにかしたい? | 年齢による物忘れと認知症の違いを鍼灸師が考える

初稿 2025年8月14日
最終加筆 2026年1月13日

最近、物忘れがひどくなったと感じる方へ

年齢を重ねてくると、誰でも一度は思うことではないでしょうか。
私自身も、正直に言えば「前より忘れっぽくなったな」と感じる場面はあります(笑)。

物忘れと認知症の違いはどこにあるのか

一般的には、「物忘れ」と「認知症」は違うものだと言われます。
その定義は医学的にはなかなか複雑で、ここで細かく説明することはしませんが、臨床の現場で私がよく感じるものがあります。

臨床で感じる一つの目安

それは、

・自分で「忘れている」と自覚できている状態は「物忘れ」
・自覚そのものが難しくなっている状態は「認知症」

という違いです。

物忘れの段階で不安を感じる理由

だからこそ、「物忘れ」の段階にいる人ほど、

「このままひどくなったらどうしよう」
「もしかして、将来は認知症になってしまうのでは……」

そんな不安が頭をよぎるのだと思います。
その気持ちは、とても自然なものです。
私自身も、同じように考えることがあります。

 

物忘れ

 

物忘れの段階でできることはあるのか

では、「物忘れ」の段階で、何かできることはないのでしょうか。
ここでは、鍼灸という立場から考えてみたいと思います。

物忘れは病気なのか?

まず知っておいてほしいのは、いわゆる「物忘れ」は、多くの場合で病気とまでは言えない状態だということです。

病気とそうでない状態の違い

少し別の例えをしてみましょう。

「記憶」を「走ること」に置き換えてみます。
まったく走れない状態であれば、それは何らかの病気かもしれません。
一方で、「昔ほど速く走れなくなった」という状態は、必ずしも病気とは言えません。
単に練習していなかった、体調が良くなかった、疲れが抜けていなかった――
そういう理由でも、走るスピードは簡単に落ちてしまいます。

物忘れに対して必要な考え方

もしこの例えで、

「走れなくなった状態」を認知症、
「走れるけれど、以前ほどではない状態」を物忘れ、

と仮に分けるとしたら、

物忘れに対して必要なのは、「治す」というよりも、
本来持っている脳の働きが、きちんと発揮できる状態を整えることだと考えられます。

 


東洋医学から見た記憶と身体の関係

東洋医学では、記憶という働きは、主に「脳」と「心」が関わっていると考えます。
そして、その働きを支えているのが「血」です。

さらに言えば、「脳」や「心」に気血がスムーズに巡っていることが、とても重要になります。

加えて、気血が巡る“場”としての身体そのものが、
無理なく循環でき、臓腑がきちんと働ける状態である必要があります。

ここまでは、あくまで理論的な話です。

 


鍼灸臨床でよく見られる二つの状態

では、実際の臨床ではどうか。

私が「物忘れ」を訴える方を診ていて、よく目にするのは、主に次の二つです。

① 頚部の強い筋緊張

一つ目は、頚部の筋緊張が非常に強いこと。
首や肩が常にこわばっていて、頭部への血流が十分とは言えない状態です。

② 血液の状態が良くない

二つ目は、血液の状態があまり良くないこと。
量だけでなく、質の面でも、脳の働きを十分に支えられていない印象を受けることがあります。

ただし、ここで注意してほしいのは、あくまで「物忘れ」の段階の話だということです。
認知症の方にも似た状態は見られますが、今回は同じものとしては扱いません。

頚部の過緊張と鍼灸

頚部の過緊張については、鍼灸が力を発揮しやすい分野だと感じています。

実際、私自身も首まわりにはよく鍼をしますが、施術後に頭がすっきりする感覚がはっきりあります。

血液の状態への取り組み方

一方、血液の状態については、東洋医学的な診察を行わなければ、
どの臓腑や経絡、どの身体の状態を整える必要があるのかは判断できません。

そして、この部分は即効性を期待するものではなく、
中長期的に取り組んでいく必要のある領域です。

 


物忘れと生活習慣の関係

食事、運動、睡眠――

そうした生活習慣を見直しながら、少しずつ身体の状態を整えていく。
その積み重ねが、結果的に「物忘れ」に影響してくることは、決して少なくありません。

 


最後に

「物忘れ」は、誰にでも起こり得るものです。

だからこそ、不安になる前に、自分の身体が今どんな状態なのかを知ること。
そこから始めても、遅くはないのかもしれません。

 

 

2025年08月14日

ちょっとよくない赤ら顔-内熱・発熱・鬱熱から考える

初稿 2025年8月15日
最終加筆2026年1月18日

赤ら顔の原因と考え方
 ー 東洋医学・鍼灸の視点

鏡をふと見たときに、

「今日、なんだか顔が赤いな」と感じたことはありませんか。

もともと肌が白く、赤みが出やすい体質の人もいますし、
幼い頃から頬がほんのり赤い、いわゆる「りんごほっぺ」の人もいます。
こうしたもともとの赤ら顔は、今回の話の中心ではありません。
それ自体は、基本的に病的ではなく、体質の範囲であることが多いからです。

今回取り上げたいのは、

「以前とは違う赤ら顔」
「最近になって出てきた赤ら顔」

です。
特に次の二つに注目します。
① 顔面がまだらに赤くなる
② 顔面が全体的に赤くなる
頬だけ赤くなる、おでこだけ赤くなる、鼻の周りだけ赤くなる、といった細かなパターンも実際にはありますが、まずはこの二つの典型例から考えてみましょう。

赤ら顔

 

① 顔面がまだらに赤くなる-内熱のサイン

東洋医学的な見方 ―「内熱」

このタイプの赤ら顔は、東洋医学では「内熱(ないねつ)」と表現されることが多い状態です。
簡単に言えば、

体のどこかに「こもった熱」がある、

というイメージです。
熱といっても、必ずしも体温計で測れる発熱ではありません。
むしろ、体の内側にじわじわと溜まっているような熱の場合もあります。

よくある出来事(例)

たとえば、こんな経験はないでしょうか。

普段はあまり食べないのに、前日に焼肉をたくさん食べた。
脂っこいものやアルコールも一緒に摂った。
その夜、なんとなく寝つきが悪かった。

翌朝、顔を見たらまだらに赤い。

こうしたとき、東洋医学では「腸内に熱がこもっている」と考えます。
現代医学的に言えば、消化管の軽い炎症や血流の変化に近い状態かもしれません。

一時的なら必ずしも問題ではない

ポイントは、一時的なものであれば、必ずしも問題ではないということです。
食べ過ぎた翌日に赤くなる。
お酒を飲んだ翌日に赤くなる。
ストレスが強かった日に赤くなる。

こうした反応そのものは、体が正常に戻そうと反応しているだけとも言えます。
この段階で、必ず治療が必要というわけではありません。

問題になるのは「当たり前」になったとき

しかし、問題になるのは、

このまだらな赤ら顔が「当たり前の状態」になってしまう時です。

食事を特別に乱したわけでもないのに、いつも赤い。
寝不足でもないのに、慢性的に赤い。
何週間も同じような状態が続いている。

こうなってくると、「一時的な反応」ではなく、
体のどこかに慢性的な熱の偏りがある可能性が出てきます。

鍼灸では、どの臓腑に熱がこもりやすいかを見ていきます。
場合によっては胃腸であったり、肝であったり、あるいは別の臓腑であったりします。

東洋医学と現代医学の違い

今は東洋医学的な説明をしましたが、
現代医学的なアプローチでも、もちろん構いません。

ただし、東洋医学の「内熱」という考え方と、現代医学の炎症や血管反応の考え方は、完全に同じではありません。
同じ現象を、違う言葉で見ている部分もあれば、見ている角度自体が違う部分もあります。
その違いを理解したうえで、自分に合ったアプローチを選ぶことが大切です。

 


 

② 顔面が全体的に赤くなる-発熱・心腎の問題

正常な赤みと異常な赤み

次に、顔全体が赤くなるタイプです。
これは東洋医学では「発熱」の状態と考えます。

ただし、ここでも注意が必要です。
緊張したとき。
運動したとき。
暑い場所に長くいたとき。

こうした場面で顔が赤くなるのは、ごく自然な反応です。
血流が増え、体温調節が働いている証拠でもあります。

問題なのは、
「本来、赤くなるはずのない状況なのに、顔全体が赤い」ときです。

代表的なのは風邪です。
熱が出ていれば、顔全体が赤くなるのは自然な反応でしょう。

しかし、熱もないのに、顔だけが常に赤い。
あるいは、ちょっとしたことで異常に赤くなる。

こうした場合、東洋医学では「心」や「腎」の問題が関係していることが多いと考えます。

具体例(食生活の変化)

少し具体例を挙げます。

以前、炭水化物抜きダイエットが流行った時期がありました。
普段はそれほど肉を食べない人が、ダイエットのために急に肉中心の食生活に変えた。
すると、中には顔全体が赤くなってしまう人がいました。

もちろん、全員がそうなるわけではありません。
同じ食事でも平気な人もいれば、強く影響を受ける人もいます。

私の臨床経験から見ると、こうしたケースでは次のようなことが重なっているように思います。
・その人にとって、動物性たんぱく質が急激に増えた
・腎臓にかかる負担が大きくなった
・動物性脂質の増加によって体内の熱が上がった
その結果として、顔全体が赤くなったのではないかと考えています。

長引く場合の問題(鬱熱)

さらに問題なのは、こうした状態が一時的に終わらず、続いてしまう場合です。

その場合、単なる「食事の影響」だけではなく、
どこかの臓腑に鬱熱が起こっている場合が多いようです。現代医学的に言うなら、炎症のような状態が残ってしまっている可能性が考えられます。
この鬱熱などが軽減しない限り、赤ら顔も収まりにくいのです。

このタイプの赤ら顔は、あまり良くない

顔全体が慢性的に赤い状態は、東洋医学的には軽く見てはいけません。

どの臓腑が熱を持っているのか。
それが心なのか、腎なのか、あるいは別の臓腑なのか。
経絡の流れにどのような影響が出ているのか。

鍼灸では、こうした点を見ながら治療を組み立てていきます。
場合によっては、生活リズムや食事、服薬との関係も含めて考えます。

特に大切なこと ― 飲食物の見直し

ただし、ここで一つだけ、強調しておきたいことがあります。
それは、

さらに熱を帯びる可能性の高い飲食物を控えること。

これは本当に大切です。

いくら鍼灸で熱を下げようとしても、
毎日の食事でさらに熱を増やしていれば、体はなかなか落ち着きません。
アルコール、刺激の強い香辛料、過剰な脂質、極端な肉中心の食事などは、
体に熱を生みやすいことが多いです。
すべてを一律に禁止する必要はありません。
しかし、赤ら顔が強いときには、意識して飲食物を見直す価値があります。

最後に ― 赤ら顔は体からのサイン

赤ら顔は、単なる見た目の問題ではありません。

体の内側で起きている変化の「サイン」であることもあります。

一時的な反応なのか、慢性的な状態なのか。
食事や生活と関係があるのか、そうでないのか。

鏡の中の赤ら顔を、ただ「困ったもの」として見るのではなく、
「体からのメッセージ」として受け取ってみてください。

その見方ができたとき、
赤ら顔は、あなた自身の体を理解するための手がかりになるかもしれませんね。

 

2025年08月15日

においが分からない?― 嗅覚低下を東洋医学と鍼灸の視点から考える

初稿 2025年8月18日
最終加筆2026年1月26日

嗅覚低下/においが分からない

「最近、においが分かりにくくなった気がする」

そう感じたことはありませんか。

風邪をひいたあと、アレルギー性鼻炎が長く続いたあと、副鼻腔炎を繰り返したあとなど、きっかけは人それぞれですが、嗅覚の変化は意外と多くの方が経験しています。

もちろん、嗅覚の正確な評価や診断は、耳鼻咽喉科での専門的な検査が必要になります。ここでは診断の話ではなく、鍼灸臨床の立場から「におい」をどう捉えているかについて整理してみたいと思います。

 

においが分かりづらい

 

(一)東洋医学から見た「におい」と嗅覚

東洋医学の臓腑理論では、「におい」に関わる臓腑として、主に

• 肺
• 心
• 大腸

が挙げられます。

まず「肺」について

まず「肺」です。

東洋医学でいう肺は、単なる呼吸器ではなく、「気を取り入れ、全身に巡らせる」働きを担う存在です。鼻は呼吸器の入口でもありますから、嗅覚と肺の関係は、現代医学的に考えても比較的イメージしやすいかもしれません。

次に「心」について

次に「心」です。

東洋医学の心は、精神活動や意識、感覚の統合と深く関わる臓腑で、現代医学でいえば脳機能に近い役割も担います。においを「感じる」「認識する」という過程には中枢の働きが必要ですから、ここも大きな関与があると考えます。

そして「大腸」という視点

そして、少し意外に感じられるかもしれないのが「大腸」です。

東洋医学では、肺と大腸は「表裏関係」にあり、互いに影響し合う関係とされています。そのため、肺に関係する症状を考える際には、大腸の状態も同時に考慮します。この考え方は現代医学にはほとんど見られないため、東洋医学特有の視点と言えるでしょう。

臓腑理論の観点では、これらの臓腑に不具合が生じることで、においが分かりづらくなるケースが多いと捉えています。臨床では、まずこれらの臓腑の状態を丁寧にチェックし、問題の見られるところに対して治療を組み立てていきます。

 

(二)経絡から見た「鼻」と嗅覚

次に、経絡理論の視点です。

鼻の周囲を走行する主な経絡としては、

• 督脈
• 大腸経
• 胃経

が挙げられます。

経絡は、気血が全身を巡るルートと考えられています。身体の各器官は、気血が十分に巡ることで、本来の機能を発揮するとされます。

つまり、鼻を巡る経絡の流れに滞りや偏りが生じると、鼻の機能そのものが十分に働かなくなり、その結果として嗅覚の低下や違和感が現れる、という捉え方です。

臨床では、これらの経絡のどこに流れの悪さがあるのかを確認し、問題のある部位に対して施術を行います。「鼻そのもの」だけでなく、経絡全体の流れを見ながら調整していく点が、鍼灸的な特徴でもあります。

 

(三)大極理論における力の配分と嗅覚

もう一つ、別の視点として大極理論があります。

大極理論では、上半身は「程よく力が抜けている状態」が望ましいと考えます。これを「上虚」や「頭寒」と表現することもあります。

ところが、本来抜けている方が良いはずの力が、抜けすぎてしまったり、逆に無駄に入りすぎてしまうと、その部位に不調が生じやすくなります。もし、そのアンバランスが鼻の周囲で起これば、嗅覚に影響が出ることも十分に考えられます。

そこで臨床では、

本来力が入っているべき部位――「下実」「足熱」と表現されることもありますが、そうした部位にきちんと力が入っているかどうかを確認します。力が不足しているところを見つけ、そこが働きやすくなるよう調整していくことで、上半身の過剰な緊張や、逆に抜けすぎた状態が改善されていくことがあります。

 

(四)臨床ではどのように考え治療するのか

実際の臨床では、「嗅覚に効く」と経験的に知られているポイントから施術を組み立てることも多くあります。しかし、それだけで終わらせるのではなく、

• どの臓腑が関与しているのか
• どの経絡の流れが影響しているのか
• 全身の力の配分はどうなっているのか

といった視点を重ね合わせながら、治療を進めていきます。

「においが分からない」という一見すると局所的な症状も、こうして見ていくと、身体全体の状態と深くつながっていることが分かります。鍼灸では、そのつながりをほどきながら、少しずつ本来の感覚が働きやすい状態を目指していきます。

 

 

 

2025年08月18日

よく首が痛くなる|右側・左側の違いと内臓との関係

初稿 2025年8月19日
最終加筆2026年2月16日

首という部位の特徴

首は、非常によく動く場所です。

身体の部位の中でも、運動性の高さという点では、上位に入る部位ではないでしょうか。前後左右に動き、回旋し、わずかな傾きでもバランスを取り続けています。
その分だけ、負担もかかりやすい場所です。

そして首は、単に「首だけ」で存在しているわけではありません。
頭の重みを支え、肩や背中と連動し、呼吸や内臓の状態とも無関係ではありません。非常に動く部位であるがゆえに、他の部位の影響も受けやすい。私はそのように感じています。

 

頚部痛

 

「凝り」ではなく「痛み」の場合

「首が凝る」というよりも、「首が痛くなる」という場合。

このときは、単純な筋疲労だけではなく、いくつかの問題が重なっていることが多い印象があります。
その中で、比較的よく重なっていると感じるのが、

1.肝臓の問題
2.心臓の問題
3.首自体の問題

です。

肝臓の問題と右側の首

東洋医学的な比重の話

ここでいう肝臓や心臓の問題とは、必ずしも重篤な疾患を意味しているわけではありません。東洋医学的な意味での機能的な偏りや負担の比重の話です。

肝臓の問題の比重が大きい場合、
➡ 右側の首が痛くなりやすい。

心臓の問題と左側の首

心臓の問題の比重が大きい場合、
➡ 左側の首が痛くなりやすい。

こうした傾向を、臨床ではしばしば見かけます。
もちろん、首は左右のバランスを取りながら働く部位です。右だけ、左だけ、という単純な話ではありません。あくまで「そういうことが多い」という経験則に過ぎません。

しかし、頻度としては、やはり多いのです。

体調との照らし合わせ

たとえば、右側ばかり痛くなる。
あるいは、左側にだけ慢性的な違和感がある。

そのような方は、ご自身の体調の変化と照らし合わせてみると、何か共通点が見つかることがあります。食事の乱れ、睡眠の質、精神的な緊張、検査数値の変動。首だけを見ていると分からないことが、全体で見ると見えてくる場合があります。

首自体の問題(古傷的要素)

そして三つ目の、首自体の問題。
いわゆる古傷的な要素です。

過去の寝違え、むち打ち、長期間の姿勢の偏りなどが、完全に解消されないまま残っているケースです。

このタイプは、継続的な取り組みが必要になることが多く、時間と手間がかかります。一度の施術で大きく変わるというよりも、少しずつ積み上げていくような関わりになります。

首だけを見ないという視点

首が痛いとき、私たちはつい首だけを揉んだり温めたりします。
それ自体が悪いわけではありません。
ただ、「なぜそこに痛みが出ているのか」を一段深く考えてみると、身体の見え方が変わることがあります。

東洋医学的視点と現代医学的視点

これらの話は、基本的には東洋医学的な視点から整理したものです。

しかし、現代医学的に考えても、健康診断や人間ドックの結果と照らし合わせてみることで、ヒントになることが間々あります。

観察という第一歩

右ばかり痛む首。
左ばかり痛む首。
何度も繰り返す首の痛み。

それを単なる「首のコリ」として片付けるのか、身体からのサインとして一度立ち止まってみるのか。

その違いは、小さくないかもしれません。

それぞれの問題に対する考え方や取り組み方については、今後この雑談コラムで触れていく予定です。

もしご自身の首の痛みを思い浮かべながら読んでくださったのであれば、いまはまず、「どちら側に出やすいのか」「どんなときに強くなるのか」だけでも観察してみてください。
そこから見えてくるものが、きっとあります。

 

2025年08月19日

肩甲骨の間が痛い|背中(上背部)の痛みを鍼灸の視点で考える

初稿 2025年8月25日
最終加筆2026年3月5日

背中(肩甲骨の間)が痛い

背中と言っている場所(上背部)

ここで言っている背中は、

上背部

 

上背部とよく呼ばれる場所のことで、医学的には胸椎1-7番目の周囲のことを指します。
ちょうど、肩甲骨と肩甲骨の間のあたりです。

 

肩甲骨の間はセルフケアが難しい

この場所、痛くなった経験がある方は分かると思いますが、少し扱いづらい場所です。

手はなんとか届きそうで届きませんし、
ストレッチをしても効いているのか、効いていないのか、はっきりしない。

マッサージ器などを当ててみても、

「当たっているような、当たっていないような」

そんな微妙に届いているのか、届いていないか分かりづらい場所です。

 

自分で対応する場合の方法

自分でどうにかしようとすると、
多くの場合は首を動かして、結果として、この部位に影響が出ることを期待する形になります。

首の動きを使った調整

例えば、
・首を前後に動かしたり
・左右に倒したり
・ゆっくり回してみたりします。

そういった動きでは、上背部の筋肉も動くため、
ストレッチのような、運動のような効果を期待した取り組みになります。

首にトラブルがあると難しい

ただし、ここで一つ問題があります。

もし首自体が痛い場合、
あるいは首にトラブルがある場合は、
この方法自体が難しくなることです。

それは、首自体が痛い人にとっては、
首を動かすこと自体が負担になってしまうからです。

 

上背部は鍼灸治療に向いている部位

そう考えると、この肩甲骨の間の上背部は、

鍼灸治療に向いている部位の一つ

とも言えます。

自分では手が届きにくい。
動かして調整するのも難しい。
そういう場所は、外から刺激を入れる治療の方が、
取り組みやすいことが多いからです。

 

肩甲骨の間が痛くなる原因

では、この上背部の痛みは、何が原因なのでしょうか。
当然ながら、いろいろな原因が考えられます。

例えば、
・長時間の作業
・姿勢の偏り
・筋肉の疲労
・オーバーユース

こういった理由で、筋肉がこわばり、痛みが出ることもあります。
いわゆる「使いすぎ」や「疲れ」です。

 

鍼灸臨床でよくみる傾向(左=心/右=肝)

しかし、鍼灸の臨床の角度から見ると、
この場所の痛みは、単純な筋肉疲労だけではなく、
特定の臓腑の状態と関係していることが多いと感じます。

臨床では、比較的はっきりとした傾向があります。
それは、

左なら「心」
右なら「肝」

です。
もちろん、これは絶対ではありませんが、
かなり多くのケースでこの傾向が見られます。

 

鍼灸でいう「心」と「肝」

ここで言う「心」や「肝」は、
現代医学で言うところの心臓や肝臓とは、
少し意味合いが違います。

鍼灸で使われる臓腑の概念は、
機能を中心にした捉え方だからです。

ざっくり言うなら、

「心」=循環機能
「肝」=血液の調節機能

と考えると、イメージしやすいと思います。

※本当は東洋医学的な表現には、もう少し多くの意味があります。
興味のある方は勉強してみると、なかなか面白い分野ですよ。

 

夏と「心」の負担

例えばですが、この記事を書いている現在は
2025年8月25日です。
今日もかなり暑い日です。
この季節は体温調節のために、
多くの人が大量の汗をかきます。

汗の元は、血液です。

つまり、汗をかくということは、
体内の血液の一部を体外に出していることになります。

そして、その一方で、
体の中では普段通りに血液を循環させ続けなければいけません。

つまり、
・汗として外に出る分
・体内で循環する分

この両方を合わせた量を、
夏の間は循環させ続ける必要があります。

そう考えると、
汗をあまりかかない季節に比べて、
夏は「心」の負担が大きくなる
と言えます。

 

背中の痛みと体の反応

人体は、臓腑の働きに負担がかかると、
その周囲の筋肉が緊張する傾向があります。

そして、心臓から出る大きな血管は、
背骨の左側を通って走っています。

そのため、
循環に負担がかかると

左側の背中の筋肉が緊張しやすい

という状態が起こりやすくなります。

その結果として、

左の上背部に痛みが出る

という形になることがあります。

 

右側の痛みと「肝」

一方で、
右の上背部の痛みの場合は、

「肝」の働き

と関係しているケースが多く見られます。
このように、

「心」の不調は左背中に
「肝」の不調は右背中に

痛みとして現れることが、臨床ではよくあります。

 

鍼灸治療ではどう考えるか

こうした見方をすることで、
鍼灸治療では少し違った対応ができます。

痛みが出ている場所そのものにも施術しますが、
それだけではありません。

その痛みが、

どのような体の状態から生まれているのか

そこも含めて考えていきます。
必要に応じて、

・関連するツボへの施術
・生活習慣の調整
・体の使い方の見直し

などを、状況に合わせて取り組んでいきます。

背中の痛み一つでも、
体の内側の状態を手がかりにすると、
見え方が少し変わってくることがあります。

そして、その視点が
治療の方向を決めるヒントになることも少なくありません。

 

まとめ

もし、肩甲骨の間の痛みが続くようでしたら、

単なる筋肉のコリだけではなく、

こうした体の働きの変化も含めて

一度体を見直してみるのも一つの方法かもしれません。

 


このような症状の背景や体の状態について

同じような痛みでも、原因や身体の状態によって捉え方が変ることがあります。
関連があるかも知れない、雑談コラムも参考になるかも知れません。

・よく首が痛くなる|右側・左側の違いと内臓との関係
・腕が痛いとき|鍼灸ではどのように考えるのか

脳や神経との関係も含めて、考えられることがあります。

・中風(脳血管障害、脳梗塞など)の鍼灸治療
・脳・神経の症状・病気と鍼灸治療

身体の見方や向き合い方の全体像については、こちらをご覧ください。

・総合案内ページ|中核基点ページ

 

2025年08月25日

腕が痛いとき|鍼灸ではどのように考えるのか

初稿 2025年8月26日
最終加筆2026年3月16日

腕が痛い、腕の痛みが出る、という経験は多くの人にあります。

まず、普通に考えるなら、痛みの原因ははっきりしている場合が多いです。
例えば、どこかにぶつけた、重い物を持った、無理な動きをした、などです。

このように原因がはっきり分かり、軽度の場合、多くの人はまず様子を見るでしょう。
時間が経てば自然に治ることも多いですし、痛みが少し強ければ市販の痛み止めを一時的に使うという選択もあるでしょう。

そして、思ったより痛みが強かったり、腫れたり、動かしづらくなったりすれば、整形外科などの医療機関を受診するのが一般的でしょう。

 

腕の痛み

 

鍼灸院に相談される腕の痛みとは

では、鍼灸院で実際に相談を受ける「腕の痛み」とは、どのような状況なのでしょうか。

多いのは、例えば次のような場合です。

病院で検査を受けたが、特に原因が見つからなかった。
痛み止めは効くが、なぜ痛むのかが分からないので少し不安がある。
時々痛くなるが、原因もはっきりせず、どこに相談すればよいのか分からない。

こうした「はっきりした理由が分からない痛み」が、鍼灸院に来られるきっかけになることは少なくないです。

 

痛む場所がはっきりしている場合の考え方(経絡)

理由はよく分からないが、痛みの場所がはっきりしている場合は、鍼灸では、まずその場所にどの経絡が走っているのかを確認し、その経絡に対して治療します。

東洋医学では、体には経絡という流れの道筋があると考えています。
この流れが滞ったり乱れたりすると、痛みや違和感として現れることがあるとされています。

ですので、痛みの場所と経絡の走行を照らし合わせ、その経絡の流れを整えるような治療を考えます。

例:テニス肘(外側上顆炎)の場合

例えば、いわゆる「テニス肘」では、どうでしょうか。

医学的には外側上顆炎と呼ばれますが、痛みが出やすい場所は肘の外側です。
この場所には、手陽明大腸経という経絡が走っています。

そのため、この経絡の流れを整えることを目的に、鍼灸治療を行うことがあります。

もちろん、これは単純に「ここが痛いからここに鍼をする」という話ではありません。
経絡全体の流れを見ながら、関連するツボを使って調整していきます。

 

痛みの状況から考える腕の痛み

さて、ここまでは「痛む場所がはっきりしている場合」の話でした。

一方で、わかりづらい腕の痛みもあります。
それは、痛みの状況が良く分からない場合です。

こういうとき、鍼灸ではまず「痛みが出る状況」を整理します。
簡単に言えば、次の三つのどれに近いかを見ます。

・何かの動作をすると痛みが出るのか
・じっとしていると痛みが出やすいのか
・動作とはあまり関係なく痛みが出るのか

この違いは、鍼灸治療を考えるうえで大きな手がかりになります。

1.何かの動作をすると痛みが出る

この場合は、動きに関係する経絡や筋肉の働きを考えます。

腕を曲げる、伸ばす、持ち上げる、回すなど、
どの動きで痛みが出るのかを確認し、その動作に関係する経絡を見ていきます。

そして、痛みが出ている経絡や、その動作に関係する経絡の流れを整えることを考えて治療します。

2.じっとしていると痛みが出やすい

この場合は、経絡だけでなく「姿勢の不調」に目を向けます。

例えば、肩の高さが左右で違う、背中が丸くなっている、首が前に出ているなど、
姿勢のバランスが崩れることで腕に負担がかかっているのではないか?と考えます。

そのため、体全体のバランスや姿勢を確認し、
そのアンバランスを整えることを目的に治療を考えます。

3.どちらにも当てはまらない場合

動作とも姿勢とも関係がはっきりしない場合もあります。

このようなときは、その人の体調全体を見て、
臓腑の働きの角度から体の状態を考えていきます。

例えば、疲労が続いている、睡眠が乱れている、体調の波が大きいなど、
体の内側の状態が痛みの背景になっていることもあります。

この場合は、臓腑の働きを整えることを目的に治療を考えていきます。

 

腕の痛みを体全体の状態から考える

ここで挙げた考え方は、あくまでひとつの方法論です。

ただ、このように整理して考えることで、
腕の痛みを「単に痛い場所の問題」としてだけではなく、
体全体の動きや状態の中で捉えることができます。

現代医学の診断とは少し違う角度ですが、
こうした視点から体を見てみると、痛みの理解の仕方や治療の考え方が少し広がるかもしれません。

 

2025年08月26日

腕の付け根が痛む

初稿 2025年9月1日

ここで言っている「腕の付け根」は、解剖学的に言うと鎖骨の下で、肩甲骨の烏口突起部です。ちょっと分かりづらいので、写真で部位を出しておきます。

 

この部位に痛みが出る原因は、いくつか考えられるのですが、今回は東洋医学的に

「肺」に問題がある

場合について紹介したいと思います。

東洋医学的な「肺」の症状は、現代医学的には呼吸器の症状と重なることが多いです。現代医学で言うところの呼吸器の症状以外で、東洋医学的には「肺」の症状と考える代表的なものは、皮膚の症状と大便の症状でしょうか。

東洋医学的に「肺」に問題が出ている場合、この「腕の付け根」が痛くなることがあります。ここは、「手太陰肺経」という「経絡」が走行していて、「中府」や「雲門」とう「経穴」、つまり「ツボ」がある部位です。「経絡理論」においては、この「中府」は「肺」の「募穴」とされていて、この「ツボ」に「肺」の状態が反映されやすいとされています。

臨床的には、この部位の痛みだけで、東洋医学的な「肺」の問題とする訳では無く、他の症状や今までの経緯などを踏まえて判断しますが、ひとつの判断要因には成ります。

鍼灸では、「診断点=治療点」と言う場合が少なくないので、治療としてもこの場所を使うことがありますが、今回紹介したいのは、自分での取り組みの際にどのように考えるか?です。

このポイントに痛みを感じやすく、かつ、その原因が呼吸器や東洋医学的な「肺」にあると思われる場合、いわゆる、

心肺機能を強化

することで、この部位の痛みが軽減するかもしれないと言うことです。逆に、この部位の痛みが軽くなったり、痛みの出る頻度が下がったりすれば、心肺機能が変化してきたと考えることができるかも知れないと言うことです。

当然、この情報だけで心肺機能が改善した。と言い切るのは、早計だと思いますが、ひとつの手軽な判断基準としては、良い材料になると思うので、活用してみるのも一つの手だと思いますよ。

 

2025年09月01日

腰痛(東洋医学的な概要)

初稿 2025年9月13日

腰痛については今後も何回か取り上げることになると思いますので、今回は東洋医学的な概要を紹介してゆこうと思います。

東洋医学では、背景となる理論は主に「臓腑理論」と「経絡理論」があります。

腰痛

 

「臓腑理論」からみた腰痛

「腰は腎の府」

と言う言葉があります。
これは「腎」のエネルギーが腰に集まるというような意味なのですが、「腎」のエネルギーが弱くなると、腰に症状が出てきます。

例えば、
最近、下半身だけむくみやすい、夜トイレが近い、腰痛だけでなく足もだるい

――そんなサインはありませんか?

これらは腎の力が弱っているサインであり、腰痛とも関わっている可能性があります。主な症状は痛みであることが多いので、腰痛が症状として出やすくなると考えています。
これを現代医学的に考えると、
腎臓に何がしかの問題が出たり、腎臓が過負荷になったりすると、腎臓周辺の筋肉が過緊張する傾向が出るのと、腎臓から膀胱へ尿道が続いていますが、その経路でも過緊張の傾向が出やすいので、主に腰痛が出やすいです。腎結石で酷い腰痛が出ることは有名ですね。

「経絡理論」からみた腰痛

「経絡」は、

流れが悪いと痛くなったり、腫れたりする

と、言われています。
つまり、腰を走行する経絡の流れが悪くなると腰痛が起こると言うことになりますが、腰を走行する「経絡」の代表は「足太陽膀胱経」という経絡です。この「経絡」の流れが悪くなることで腰痛が起きると考えます。

現代医学的には、
腰部の筋肉の緊張があると、似たような作用をする筋肉が合わせて緊張する傾向があります。例えば、歩くときに腰に力が入る動作は、足を後ろに蹴り上げるような動作のときに動く筋肉に作用が近いです。

➡腰がつらいときに、ふくらはぎまで張っていませんか?

それは足の後ろ側の筋肉で、この筋肉のある部位は「経絡」でいうと「足太陽膀胱経」の位置に近いです。

➡もし、ふくらはぎまで張っているなら、「経絡」の考え方で対処可能かもしれません。

まとめ

このように、東洋医学における主な理論である「臓腑理論」と「経絡理論」での腰痛の考え方について紹介しました。

そして治療では、その原因となる「臓腑」や「経絡」に働きかけることで改善を目指していきます。

みなさんは、どんな時に腰が痛くなりやすいですか? 「こういう時に痛む」という体験があれば、ぜひ教えてください。あなたの声が、同じ症状に悩む方の助けにもなります。

2025年09月13日

足の痺れや麻痺

初稿 2025年9月26日

痺れ(感覚障害)や麻痺(運動障害)は、私自身も長年取り組んできた課題です。
今回は 下肢(足)の痺れや麻痺 について、分かりやすくご紹介します。

 

下肢

 

 


足の痺れ・麻痺の原因は?

大きく分けると、現代医学的には次のような原因があります。

・神経の問題
・血管の問題
・筋肉の問題
・その他

さらに、その原因は「炎症性」「非炎症性」にも分かれます。
少し複雑ですが、大切なのは 原因によって治療の方針が違う という点です。

 


よくあるケース

実際に多いのは次の2つです。

1.腰に原因があるタイプ(腰椎ヘルニアや脊柱管狭窄症など)
2.脳梗塞や脳出血による中枢性の麻痺

ただ今回は、局所的に起こる痺れや無力感 にしぼって説明します。

 


局所的な痺れの特徴

例えば、足の親指の内側がしびれるケース。
これは、神経を栄養する血管の流れが悪くなり、神経の働きに不具合が出ている、と考えられます。

👉 もしあなたも「足の一部だけが痺れる」「歩くときに違和感がある」といった症状があれば、局所的な原因が関わっているかもしれません。

 


鍼灸でのアプローチ

鍼灸では、痺れている局所や、その部位を通る経絡に施術を行います。

・施術直後に変化が出る場合もある
・安定させるには時間が必要なことが多い
・目安としては1〜3ヶ月の継続治療が必要になることもある

状況が重いほど、時間も必要になりますが、その分しっかり改善を目指せます。

 


気になる「痛み」について

足先の施術は場所の関係で、鍼が少し痛く感じることがあります。

・「鍼が苦手」という方は無理をせず、他の治療法を考えた方がよい場合もあります。
・「多少は大丈夫」という方なら、神経性の痺れに鍼灸はとても良い結果が出やすいです。
👉 どちらがよいかは、実際に相談して一緒に考えるのがおすすめです。

 


まとめ

・足の痺れや麻痺にはいくつかの原因がある
・局所的な痺れは血管や神経の働きの低下が関わることが多い
・鍼灸で改善を目指せるが、状況によって期間は異なる

痺れや麻痺でお悩みの方は、「自分の症状がどのタイプか」 を知ることが第一歩です。 「どのくらい通えばいいのか」「鍼は合うのか」など、不安な点は遠慮なくご相談ください。

 

2025年09月26日