当サイトの管理人であるまっちゃん先生は、中風(脳血管障害)の鍼灸治療を通して、脳や神経に関する症状や病気について取り組んでいる。その脳や神経に関する東洋医学的な認識、脳や神経が主原因と考えられている症状や病気についての東洋医学的な認識、脳や神経が原因とされる症状や治療の治療方法、などについての紹介する。
内容予定:痿証(力が入らない)に対する鍼灸治療、痙証(力が抜けない)に対する鍼灸治療、瘖症(構音障害)に対する鍼灸治療、呆証(記憶障害)に対する鍼灸治療
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痿証(力が入らない・入りづらい)
・まっちゃん先生による痿証の鍼灸治療
・痿証(力が入らない・入りづらい)概要
・運動ニューロン病(MND)・筋萎縮性側索硬化症(ALS)
痿証(力が入らない・力が入りづらい)
初稿 2024年12月2日
最新加筆 2024年12月16日
まっちゃん先生による痿証の鍼灸治療
本項では痿証について中医学的な考え方や鍼灸治療や臨床症例を紹介してゆきますが、その前に、まっちゃん先生個人の痿証に対する鍼灸治療についての考えをQ&A形式で簡単に紹介したいと思います。

Q.力が入らない・力が入りづらいという症状に対して、鍼灸治療は有効か?
A.多くの場合で有効だと思います。全ての場合という訳ではありませんが、例えば、握力が落ちている患者さんに施術すると、その場で力が入れやすくなります。握力の数値としては、微細な変化のことも多いですが、本人の実感は変わることがとても多いです。
Q.鍼灸治療の頻度は?
A.病状と進行度によります。病状が進んでいたり、進行が速い場合は、週2・3回の治療が望ましく、病状が軽かったり、進行が遅い場合は、週1回でもコントロールできることもあります。
Q.痿証における鍼灸治療の注意点は?
A.患者さんの現時点での体力や回復力が非常に問題になります。例えば、体力があったり、若かったりした場合は、頻繁な治療に対しても十分な回復力が発揮されることが予想されますので、頻繁に、刺激量もそれなりで治療できますが、逆に体力が元々なかったり、病状が進んでいて回復力が落ちている場合は、治療によって起こした変化に対して、回復力が十分に発揮されづらいことが予想されるので、1回の治療による刺激量を減らす必要が出てきます。
Q.痿証における鍼灸治療後の変化
A.鍼灸治療によって動きやすくなれば、同じように使っているつもりでも、筋肉の動く量が増えますので、治療後に筋肉痛のような感じになったり、運動後のようにだるくなったりすることが予想されます。治療直後は動きが良くなり、その後に前述のように、だるくなったりして動きが悪くなり、その後、回復に併せて動きがよくなっていきます。
Q.痿証におけるリハビリについて
A.筋肉は治療だけでは多くは増えてゆかず、ご自身で動かすリハビリが必須となります。また、筋肉は少し「しんどい」感じが出るほどに動かすこと、あわせて休息と栄養を与えないと、増えてゆきません。体力の問題があるので、無理は絶対にいけませんが、この点については治療やリハビリなどを取り組むのにあたってご理解が必要かと思います。
上述のQ&A形式で紹介させてもらった考えは、あくまでも、この記事を書いた時点の、まっちゃん先生の考えが基本となっています。
ほか、ご質問があれば、お問い合わせ頂けると幸いです。
痿証(力が入らない・力が入りづらい))概要
随意運動機能の減弱や消失が起こる疾患は、中医学では癱瘓(たんかん)と呼ばれます。
臨床的には、中枢性癱瘓(ちゅうすうせいたんかん)・末梢性癱瘓(まっしょうせいたんかん)・筋肉性癱瘓(きんにくせいたんかん)に分けられます。
現代医学では、中枢性癱瘓は錐体路損傷による運動障害、末梢性癱瘓は脊髄前角あるいは末梢神経による運動障害、筋肉性癱瘓は神経―筋肉接合部および随意筋自体の病変による運動障害です。
鍼灸治療は、神経組織の回復を促し、筋肉組織の超回復を利用し、血液循環を促進させ、神経や筋肉による運動機能の改善に対して一定の治療効果がみられるとされています。また、痿証の発病原因によって異なった、相応しい治療配穴を用いることで、臨床において理想的な治療効果を収めています。
運動ニューロン病(MND)・筋萎縮性側索硬化症(ALS)
運動ニューロン病(MND)は、病因不明の選択性脊髄前角細胞損害・脳幹運動神経ニューロン、或いは、錐体路の慢性進行性疾病です。
主な症状は、筋肉無力と筋肉萎縮、或いは、錐体路障害症候です。感覚系統は、一般的に障害は起こりません。臨床上では、脊髄性筋萎縮症(SMA)・進行性延髄麻痺・原発性側索硬化症(PLS)と筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの類型がありますが、筋萎縮性側索硬化症が有名です。
本病の発病原因は不明です。原因に関しては様々な報告がありますが、ある種の植物毒素、或いは、重金属中毒・慢性ウイルス感染・遺伝・免疫機能異常などの素因が関係する可能性があるとされています。通常は40~50歳に発病し、30歳以前では比較的に少なく、男女比は約2:1とされます(注:この傾向は調べ方や時代によって変化すると思われますので詳細はお調べください)です。発病時は、症状がはっきりせず、緩慢に進行しますが、稀に亜急性進行が見られます。
臨床症状の中心的症状は、筋無力と筋萎縮で、これらから基本的には中医の「痿証」の範疇に属します。但し、それと同時に上位運動ニューロン病変の症状、例えば、下肢筋緊張増加や反射亢進などが見られた場合は、「痙証」の病機を兼ねているか考慮する必要があります。この状況をもう少し論じると、脊髄前角細胞が損傷した、症状が無力感と筋萎縮で錐体路症候が見られない脊髄性筋萎縮症(SMA)と、上下運動ニューロン双方が損傷した、症状は筋無力・筋萎縮と錐体路症候が見られる筋萎縮側索硬化症(ALS)があります。延髄運動神経核の単独損傷では、症状が咽喉筋と舌筋無力・萎縮の進行性延髄麻痺がありますが、嚥下障害の所で述べる予定です。
【臨床症状】
(1)脊髄性筋萎縮(SMA):常見されるのは、両上肢遠端の筋萎縮、脱力・無力から症状が始まります。一側から開始しても、もう一側に進行します。徐々に前腕・上腕と肩部の筋群に波及します。多くは無いですが、筋萎縮が下肢から開始する症例もあります。症状進行による筋萎縮は明確で、筋緊張力は低下し、筋線維束攣縮が見られ、腱反射は減弱し、病理反射は陰性です。感覚と括約筋機能は一般的には無障害です。本病の進行は比較的緩慢です。
(2)筋萎縮性側索硬化症(ALS):常見されるのは、一側或いは両側の手指運動が稚拙になる、または、無力になる症状から始まります。その後、手部の筋萎縮が出現します。母指球筋・小指球筋・骨間筋・虫様筋は明確に症状が見られることが多く、その場合、両手は鷲手を呈します。徐々に前腕・上腕と肩甲帯筋群にも症状が波及してゆきます。初期症状の発現から時間が経過するに従って、筋無力と筋萎縮は、体幹や頚部に至り、顔面筋と咽喉筋にも達します。両上肢は筋萎縮し、筋緊張力は高くありませんが、腱反射は亢進し、Hoffmann反射は(+)です。両下肢は痙攣性に運動麻痺し、筋緊張力は高くなり、腱反射は亢進し、病理反射は陽性になります。下肢筋萎縮と筋線維束攣縮は比較的軽度です。一般的に、客観的感覚障害は見らませんが、臨床的には、よく主観的な感覚症状が見られます。例えば、しびれ感などです。括約筋機能は、一般的に良好に保持されます。意識は、終始しっかり覚醒が保たれます。延髄麻痺は、一般的に本病の晩期に発生するとされますが、少数の症例では初期の段階から症状が見られます。舌筋は、先に障害を受けることが多く、症状は舌筋萎縮や舌の震顫、舌を出す力が低下してゆきます。その後、顎・咽・喉・咀嚼筋萎縮や無力が出現し、講音がはっきりせず、嚥下困難、咀嚼無力になってゆくとされます。同時に両方の皮質延髄路が損傷される事によって、仮性延髄麻痺を併せ持つことになります。顔面筋の中では、口輪筋の障害が最も明確に見られる場合が多いです。外眼筋は一般的には影響を受けません。
【鑑別診断】
中年期に密かに発病し、次第に進行してゆくとされます。上位あるいは下位運動ニューロン性の運動麻痺あるいは両方から起こるものが主な臨床症状です。筋肉のピク付きが併せて起こり、感覚障害は基本的には見られず、一般的に診断は難しくありません。但し、この疾病における早期症状や非典型症状の場合では、下記疾病との鑑別に十分注意する必要があります。(注:現代医学における診断は、必ず医師による診断が必要です)
(1)頚椎症:手掌筋萎縮、四肢腱反射亢進、両側の病理反射陽性が見られます。かつ、上肢あるいは肩部に疼痛があり、感覚障害が見られることが多く、延髄麻痺の症状は見られません。頚椎X線画像・CTあるいはMRIにおいて頚椎骨質造成・椎間孔狭窄・椎間板変性あるいは脱出が見られ、酷いものは硬膜嚢が圧迫を受けます。
(2)頚椎脊髄腫瘤:脊髄への圧迫により、上肢の筋萎縮と四肢の腱反射亢進がみられ、両側の病理反射が陽性になります。また神経根性の疼痛と感覚障害がみられます。一般的には筋線維側攣縮によるピク付きはみられません。腰椎穿刺検査により脊柱管閉塞がみられ、脊柱管造影・CT或いはMRIにて脊柱管に占拠性病変(閉鎖腔のある部分を占領する様に発達する腫瘍等を占拠性病変と呼ぶ)が確認できます。
(3)脊髄空洞症:その臨床所見は不対称性・分節型解離性感覚障害ならびに皮膚関節の栄養障害がみられます。MRI検査により空洞画像を確認することで、確定診断の助けになります。
(4)頚椎脊髄蜘蛛膜炎(癒着性脊髄クモ膜炎):臨床所見は、不対称・分節性感覚障害と反復発作性病態であり脊柱管造影によって梗塞あるいは癒着性所見が見られることで鑑別診断の根拠となります。
(5)上肢末梢神経損傷:上肢の筋無力と筋委縮が見られるが、多くは一側性で、感覚障害を併せ持つため鑑別することができます。
【針灸配穴】
(1)治則
滋補肝腎、疏通経脈(肝腎を滋養し補い、経脈をのびやかに通じさせる)
(2)配方:
華佗夾脊刺、風池、大椎、肝兪、腎兪、陽陵泉、絶骨、血海、足三里、極泉、合谷、曲池ほか。
(3)操作:省略
(4)治療頻度
本病気の性質より、可能な限り頻繁に治療することが良いです。理想は、毎日鍼灸治療するのがベストで、可能であれば一日二回行います。現実的には、治療可能な頻度で取り組んでゆきます。
【配方理論】
現在(2006年現在)、本病に対する特効的治療方法は見つかっていません。体調の維持と対症治療が、本病の主な治療方針となります。軽度であれば延髄麻痺(構音障害や嚥下障害)に対して、症状の改善は良好です。また、呼吸のしづらさも軽度な場合は、呼吸筋や呼吸補助筋の障害の場合が多いため、症状の改善は比較的に良好です。
中医学(東洋医学)の角度からは、慢性病の多くは虚証であり、肝腎の陰血が内耗し、肝は藏血の臓であることから筋を主り、腎は藏精の所であることから骨を主り、肝腎精血が虚損していることで、筋骨経脈が栄養を失い、故に肢体はうまく動かず使えなくなると認識しています。治療は滋補肝腎・疏通経脈をもって行い、脊柱の近傍穴である華佗夾脊刺を主要な穴位とし、局所穴位を合わせます。華佗夾脊刺は直接脊髄神経根付近を刺激する事ができ、神経根の代謝を改善し、神経機能の回復を加速させる目的があります。筋肉萎縮が明確な者に対しては、筋肉・筋肉群に対して多刺を行うことで、局部の経気運行を改善させ、筋肉栄養が増加し、筋肉萎縮の回復を促進させることを狙います。鍼灸治療を長期間行なうことで、比較的満足な治療効果を得ることが出来ます。(つづく)