当サイトの管理者である、まっちゃん先生は、中風(脳血管障害、脳梗塞や脳出血など)への鍼灸治療について長く取り組んでいる。そのため、中医学や東洋医学では、どのように脳や脳血管障害を考えているのか?、どのような鍼灸治療を構築しているのか?、実際にどのように治療が行われているのか?、などについての紹介する。
内容予定:中医学における神について、中風(脳血管障害)に対する中医学の認識、脳血管障害に対する鍼灸治療(醒脳開竅針刺法の内容、臨床研究、医案)、痿証(力が入らない)に対する鍼灸治療、痙証(力が抜けない)に対する鍼灸治療、瘖症(構音障害)に対する鍼灸治療、呆証(記憶障害)に対する鍼灸治療
投稿済み
・まっちゃん先生による脳梗塞の鍼灸治療
・中医学における「神」の検討
・中風(脳血管障害)に対する伝統医学の認識
・中風(脳血管障害)に特化した鍼灸治療…醒脳開竅針刺法
・醒脳開竅針刺法による中風(脳血管障害)治療の臨床および研究
・症例報告 中風(脳血管障害)鍼灸治療
・【専門家向け】 醒脳開竅針刺法の教授について
初稿2024年12月15日
まっちゃん先生による脳梗塞の鍼灸治療
本ページでは、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害(中医学では「中風」と呼びます)についての、中医学における解釈や治療方法や研究や臨床報告などについて紹介してゆきますが、その前に、まっちゃん先生個人の中風に対する鍼灸治療についての考えをQ&A形式で簡単に紹介したいと思います。
Q.脳梗塞や脳出血に対して鍼灸治療は有効か?
A.状況によります。よく臨床で見られるタイプのの脳梗塞や後遺症に対しては、あくまでも私の実感ですが、効果はあると感じています。天津中医薬大学第一附属医院での研修や日本での臨床で数百人は患者さんを診させていただいていますが、ケースバイケースのことが、本当に多いので、とても効果が良いことも、残念ながらあまり効果が出ないこともあります。ただ、どのようなタイプでも急性期では、効果は高い実感はあります。

Q.発症からの時期と治療効果の関係は?
あくまでも一般的な場合の話ですが、発症から2~3ヶ月以内は、どのような取り組みでもいいので、優先して絶対にやった方がイイです。この時期は、本当に鍼灸やリハビリをはじめ、回復に対する取り組みをしたほうがよいのです。その理由は時期を外れると回復度に、ものすごく影響することが一般的なためです。(維持期でも取り組みは、必ず有効ですが、その程度に差が出ます)
Q.鍼灸治療開始のタイミングや治療頻度は?
治療開始は、現代医学的にOKが出てからです。鍼灸治療院は病院とは違い生命維持に関する医療器具や人員が無いためです。
治療頻度は、発症から2~3ヶ月目までは、可能な限り頻繁に行うのが良いです。少なくとも週2~3回です。それ以降は、ご本人の考えや生活などによって頻度を考えてゆきますが、どの時期であっても、短期的な治療効果を狙った場合は、今までの経験から週2・3回は必要です。治療に対する取り組み方は様々ですので、ご相談いただければと思います。
Q.入院中に病院へ出張治療できますか?
主治医の先生の判断によります。私自身は、数回主治医の先生の許可がおりて入院中の患者さんに鍼灸治療をしたことはありますが、患者さんのための理由から、病院にも様々なルールがありますので、ご理解頂ければ幸いです。
Q.どの程度の症状なら施術可能ですか?
A.概ねお一人で生活できるお体の状態であれば施術可能です。私は現時点(2024/12/16)では一人で施術しているため、軽度の介助しか出来ない状況のためです。介助の方がご一緒にご来院されれば、車椅子でのご来院でも施術可能です。ただ、車椅子でトイレに入れませんのでご注意ください。
上述のQ&A形式で紹介させてもらった考えは、あくまでも、この記事を書いた時点の、まっちゃん先生の考えが基本となっています。
ほか、ご質問があれば、お問い合わせ頂けると幸いです。
初稿2024年11月21日
最終加筆2025年1月6日
中医学における「神」の検討
一、神の概念について
神とは、人体の精神活動・思惟意識・感知聞嗅・躯体運動などの機能的な活動能力のことで、臓腑機能の盛衰や気血津液の盈虧(えいき:月の満ち欠け)が、外から見てわかる形に現れだ兆候でもあります。つまり、神は、人体という生命活動の主宰をしています。
神の本来の意味は、『周易・系辞』の中で言われているように、「変化不測之謂神。」です。
神という、この概念を医学理論に引用するために、内包している意味を多く持たせることで、人体における生命活動の複雑な機能と自然界を密接に関係させて解釈し、医学理論に用いました。
神には広義と狭義の分があり、広義の神は、自然界における物質変化の機能を広く指し、人体生命科学においては人体生命の一切の活動の能力、ならびに各種の活動を通して産生された物質の外部兆候を指します。狭義の神は、人の精神意識活動のみを指します。まとめると、神とは、自然界における物質運動変化、人体生命活動の能力を主宰すること、人の精神や意識や思惟活動のこと、の三種類になります。
(一)神とは自然界における物質運動変化の本能と規律
『素問・天元紀大論』に「神、在天為風、在地為木;在天為熱、在地為火;在天為湿、在地為土;在天為燥、在地為金;在天為寒、在地為水。故在天為気、在地成形、形気相感、而化生万物矣。」とあり、『素問・陰陽応象大論』に「陰陽者、天地之道也、万物之綱紀、変化之父母、生殺之本始、神明之府也。」とあります。
風・熱・温・燥・寒は、五種類の自然気候を表したもので、無形の気に属します。木・火・土・金・水は、自然界の五種類の物質元素を表したもので、有形の物に属します。無形の気と有形の物が相互に影響を与えながら、感じあって、働きあい、万物はこの化生によって生成されているとしています。
古人は、この種の測り知れない変化を称して「神」としました。『荀子・天論』に「万物各得其和以生、各得其養以成、不見其事而見其功、夫是之謂神。」とあり、『淮南子・秦訓篇』に「莫見其所養而物長;其殺物也、莫見其所喪而物亡、此之謂神明。」とあります。
これらは全て『内経』の中で述べられている「神」という言葉に含まれている意味と一致します。一方で、『素問・天元紀大論』では「陰陽不測謂之神」と提言され、別の一方では、『素問・移精変気論』の中で「理色脈而通神明、合之金木水火土・四時・八風・六合・不離其常」と提言しています。これは物質社会の複雑な運動変化と規律を説明したもので、全て神の支配によるものとしています。
(づつく予定)
初稿2024年11月21日
最新加筆2024年11月25日
中風(脳血管障害)に対する伝統医学の認識
一、中風(脳血管障害)に対する認識の歴史的変化
※今後、説明予定です。
二、中風(脳血管障害)の伝統医学的な診断分類
『内経』以来、中風病候の弁証(現代医学で言う診断のこと)と分類に対して、概念・病因病機が時代や経典によって同じでないために、分証・立法も異なっています。現在ある代表的な弁証分型、弁病分症を選び、いくつかに分けて述べてゆきます。
(一) 弁病分証
『千金』記載によると、岐伯は中風を四種類に分けています。
1.偏枯:半身不遂・口眼歪斜・筋肉は偏り使えず痛む、言語は変わらず、精神(智)は乱れず、病は分腠の間にある。
2.風痱(ふうひ):身体に疼痛は無い、四肢が抑制できない、精神(智)は乱れるが酷くない、言語にはやや精彩さがある、酷いと話すことができない。
3.風懿(ふうい):たちまち人事不省になる、痰涎が上迷心竅する、咽中窒塞(咽喉が塞がる)、舌強不語、牙関不開、手足拘攣、肢体不用、気不昇降、病は臓腑にある。
4.風痺:脈浮而緩、筋骨痿弱、肢体麻痺不仁。
これら以外に『素問・脈解論』には瘖痱が述べられており、その症状は舌が動かず言葉が話せない(舌瘖不能語)、足が役に立たなくなり使えなくなる、です。原因は腎虚により至ります。腎脈は舌本を挟みますので、言葉が話せなくなり瘖と言います。腎脈は陰筋内廉を循り、斜めに膝窩に入り、骨の内廉および内踝の後を循行し、足の下に入ります。腎気が不通になると、役に立たなくなり痱と言います。
清代以来、とても多くの医家が『内経』を研究する際、提言しているのが、近世のいわゆる中風は、『内経』で言うところの煎厥・薄厥・大厥・撲撃・巓疾の病ということです。病が突然発症し、意識が遠のき倒れ人事不省になるものを「撲撃」と呼びます。眩暈・頭脹・失明・失聡・項強などの頭部脳部に病状が見られるものを「巓疾」と呼びます。中風の多くは腎陰不足・肝陽鴟張(しちょう:空騒ぎをする、凶暴)で、下虚上実、気血衝逆するものを「厥」と呼びます。厥とはすなわち気血逆乱上衝の意味です。陰液不足、陽亢耗陰、肝風内動によって、神昏・失明・失聡・片麻痺などの症状がある者を「煎厥」と呼びます。激怒し発病に至ったものは「薄厥」、突然に発症し、証候が重篤なものは「大厥」と呼ばれます。命名は異なりますが、その病因病機と証候に基づくと、全て現代における急性脳血管障害の範疇に属します。
(二) 病位弁証
最初に『金匱要略』に見られ、今なお引き続き使われています。この種の弁証方法は、「外風」による人体の深浅部位と相応する証候によって決まるものです。一般的に言えば、精神意識障害の有無で中経絡と中臓腑が分けられています。また症状の軽重・緩急によって経と絡・腑と臓が分かれます。
1.中絡:口歪、肌膚あるいは手足半身麻木、症状が出たり止まったりする。一般的には疾病期間は比較的短く・症状は比較的軽い。
2.中経:半身麻木あるいは無力、あるいは不利、言語謇渋。症状は比較的重く、生活を自分で送ることや仕事を行う能力に影響がある。
3.中腑:嗜睡・口歪・失語・片麻痺。症状は重く、すでに生活や仕事をする能力が失われている。
4.中臓:神昏・項強・鼻鼾(いびき)・気促・、失語・片麻痺・二便失禁、酷いと抽搐(ちゅうちく:筋肉が震える、痙攣のこと)・痙厥(肢体硬直・痙攣し神志不清あるいは神清かつ四肢厥冷)。病状は急で重く危険で生命の危険が見られる。(つづく)
初稿2024年11月21日
最新加筆2024年11月25日
中風(脳血管障害)に特化した鍼灸治療…醒脳開竅針刺法
一、醒脳開竅針刺法の腧穴配穴と針刺操作
醒脳開竅針刺法は、現代医学で言うところの脳血管障害、つまり脳梗塞や脳出血を治療するために考えられた鍼灸治療方法です。
醒脳開竅針刺法が有効である重要な要素の一つは、厳格な処方原則があり、とりわけ操作上での特殊な規定があります。臨床応用における主穴は最も重要で、醒神開竅・通調元神の主要な効能を果たし、醒脳開竅針刺法が伝統針刺法と区別される重要な要素の一つと言えます。
臨床上では醒脳開竅針刺法の主穴は二組の処方に分けられ、脳卒中の臨床段階によって分けて使われます。元来の主穴処方Ⅰは、急性期の病状が重い症状に使われるため、刺激量が大きい傾向があります。しかし、病状が好転し、病人の意識が明瞭になり、運動機能や感覚機能が回復するにつれて、刺激量を軽減させた処方が必要になりました。それが、醒脳開竅の主穴処方Ⅱです。
臨床では、この二組の主穴処方を使ってゆきますが、醒脳開竅針刺法として使用する場合は、次のように規定されています。
脳卒中発生後のどの時期でも、つまり中風前兆・中経絡・中臓腑・急性期・回復期と後遺症のどの時期でも、正規の醒脳開竅針刺治療を受けたことのない患者であれば、治療開始から3日間もしくは3回は、醒脳開竅針刺法の主穴処方Ⅰを使用することを必須とします。これは、主穴処方Ⅰの醒神開竅・通調元神の作用が主穴処方Ⅱよりも作用が強くためです。三回目以降は患者の意識障害がなおも取り除かれない場合、主穴処方Ⅰを継続して運用しなければなりません。意識障害が取り除かれたが、主動運動がまだ見られていない場合、主穴処方Ⅰと主穴処方Ⅱを交代して使用します。意識障害が取り除かれ、主動運動が見られるが、力量不足あるいは仔細動作がうまくできない時は、主穴処方Ⅱを主に用い、代わりに主穴処方Ⅰも使えます。比較すると、主穴処方Ⅱは中風の回復期・後遺症期および非器質性心悸・疼痛・遺尿・陽萎および遺精などの証により多く用いることができます。
(一) 醒脳開竅針刺法主穴処方Ⅰ
1. 腧穴構成
(1)両側内関(手厥陰心包経)。
(2)人中(督脈)。
(3)患側三陰交(足太陰脾経)。
2. 規範操作
(1) 先に両側内関を刺す
内関の位置は手関節横紋中点直上2寸、両筋腱の間、直刺0.5~1.0寸、提挿と捻転を結合させた瀉法を用います。内関穴には捻転法で、作用力方向の捻転瀉法(捻転瀉法に作用する力方向)を用います。すなわち左側では反時計回りに針を捻転するときに力を用い、針は自然に戻ります。右側では順時計回りに針を捻転するときに力を用い針は自然に戻ります。提挿を併せ、両側同時に操作し、手技を1分間施します。
(2) 続けて人中を刺す
人中の位置は鼻唇溝の上1/3のところ、鼻中隔に向けて斜刺0.3~0.5寸、雀啄手技(瀉法)を用います。針体を穴位に刺入したのち、針体を一方向に360°捻転し、筋線維を針体に巻きつけ、再び雀啄手技を施します。涙が流れるかあるいは眼球が潤むのを度合いとします。
(3) 続けて三陰交を刺す
三陰交の位置は内果の直上3寸で、脛骨内側縁で皮膚から45°の角度で斜刺、0.5~1.0寸針を進め、針先が深部で本来の三陰交穴の位置に達するように、提挿補法を用います。すなわち快進慢退、あるいは重按軽提とも形容されます。針感は足趾に達し、下肢に自制できない動きが起こります。患肢の跳動は3回を度合いとします。三陰交は患側にのみ刺し、健側には刺しません。
3. 方意
(1) 内関
内関は、八脈交会穴の一つで、陰維脈に通じ、厥陰心包経の絡穴です。養心安神・疏通気血の作用があります。
(2) 人中
人中は、督脈・手足陰陽の合穴で、督脈は胞宮に起こり、上行して脳に入り頭頂に達するため、人中を瀉すると督脈を整えることができます。健脳寧神をもって開竅啓閉します。
(3) 三陰交
三陰交は、足太陰脾経・足厥陰肝経・足少陰腎経の交会穴で、補腎滋陰生髄の作用を持ちます。髄は精を主り、精は髄を生み、脳は髄海よりなり、髄海が有余することで脳が有益になります。(つづく)
初稿2024年11月26日
醒脳開竅針刺法による中風(脳血管障害)治療の臨床および研究
一. 中風前兆の弁証治療と臨床研究
(一) 診断と弁証
過去から現在に至る、臨床医家の経験を総合し、また、現代医学の様々な検査を踏まえて、中国では1986年に『全国中風診断と療効標準』が制定されました。
※この文章は、私が研修していたときのものを参考にしているので情報が古いです。古いですが、内容は参考になるものが含まれますので記載します。現在における診断基準は、その都度、お調べください。
1. 診断
年齢40歳以上で、主要指標中の一項目、次要指標中の三項目以上に該当するか、或いは主要もしくは次要指標を各二項目以上該当する者は、中風前兆とされます。
(但し、鑑別診断中の疾病とCTにて梗塞・出血が見られないものは除く)
(1) 主要指標
近日中に一過性の下記症状が出現していて、また併せて反復発作の傾向があるか、また下記症状が24時間を超えて持続した場合。
1)片半身の麻木感、感覚障害もしくは片半身の発汗
2)身体無力感、半身不随、口が渇く
3)めまい、頭痛
4)視覚異常、片目が見えない、視界が狭くなった
5)舌の動き悪くどもる、飲み込みずらい、むせる
6)間欠的に崩れるように倒れる(drop attack)
(2) 次要指標
1)血流変学三項目以上の異常
※日本では血流変学に相当するものが恐らくありません。参考までに中国で使われている項目には以下のものがあります。:全血高切粘度(200/S)、全血中切粘度(40/S)、全血中切粘度(30/S)、全血低切粘度(3/S)、全血低切粘度(1/S)、全血高切流阻、全血中切流阻、全血低切流阻、全血卡森粘度、全血卡森応力、全血還原粘度(3/S)、全血還原粘度(1/S)、血漿粘度、紅細胞聚集指数、紅細胞剛性指数、紅細胞変形性、紅細胞内粘度。
2)高血圧
3)糖尿病
4)心臓病
以下の疾病は除きます。
頚椎病、内耳性めまい、偏頭痛、癲癇、精神病、慢性硬膜下血腫、緑内障、脳梗塞、脳出血、大動脈炎
2. 弁証
本病の臨床症状には四種の類型がよく見られます。
(1) 肝陽上亢型
1)病因病機:40歳を超え腎陰不足のもの、要求が遂げられず肝気不舒のもの、思い悩み怒り気が短く肝気衝逆のもの、下半身が力不足で上半身が緊張する肝風内動するものが、主な発病機序。
2)証候特徴:イライラし怒り易い、顏色が赤く口が苦い、めまいがして頭がはれぼったい、耳鳴り、四肢が痺れる、舌がこわばる。多くは高血圧や動脈硬化の既往がある。
(2) 肝腎陰虚型
1)病因病機:早婚で多産や不摂生な性生活による肝腎虚損、水不涵木による虚風時動するものが、主な発病機序。
2)証候特徴:身体が衰え精神が疲れている、頭が虚ろで眼がチカチカする、物忘れをし多く夢を見る、動作が鈍い、表情が淡白、足腰が弱い、酷い場合は、大小便が制御できない、言葉がはっきり話せない。多くは脳動脈硬化や脳萎縮や糖尿病の既往がある。
(3) 気虚血瘀型
1)病因病機:体質虚弱、悩みや疲労が過度、怒り過ぎや喜び過ぎによる気血逆乱、内損や外傷による経脈不暢、気血が滞りによる血脈閉阻が、主な発病機序。
2)証候特徴:時々身体が痺れ、四肢が痛んだり膝が痛んだりする。胸に圧迫感がある、呼吸が浅い、頻繁に胸が痛む、偏頭痛、時々眼が見えなくなる。多くは心臓病や外傷の既往がある。
(4) 痰湿阻絡型
1)病因病機:脂ものが好き、酒を飲みタバコを吸う、太っていて腹が出ているなどから痰湿が内生し気痰上阻や脳竅時閉するものが、主な発病機序。
2)証候特徴:太っていて四肢が重い、いつも眠くよく横になる、頭が重く四肢が痺れる、時々どもる、手足がうまく使えない。多くは高脂血症や糖尿病の既往がある。
上述の四型が複合していることもあります。臨床では、症状が出たり出なかったりするもの、症状が重くなったり軽くなったりするものがあり、虚実夾雑証や本虚表実証のこともあります。病因は違っても病機の転帰は一致しています。
(二) 治療 (つづく)
初稿2024年11月28日
症例報告 中風(脳血管障害)鍼灸治療
注意:プライバシーを考慮して内容を一部変更してある場合があります
中風(脳血管障害 一過性脳虚血発作 TIA)
患者:60代女性
主訴:めまい、右半身無力の断続発作3日。
病史:高血圧を約10年患っていて、血圧は、160~210/90~120mmHg位の間で、断続的に降圧薬を服用中。3日前の早朝にめまいが起こった。目の前が暗くなり、頭が重く足が軽く感じ、すぐに右上下肢に力が入らなくなった。横になって30分ほど休んだら、症状は無くなった。その日の午後2時頃に、また同じような症状が起こったので、すぐに救急外来を受診した。その際の血圧は、170/100mmHg位だった。
検査:精神やや弱、面色無華、両目無神、右上下肢軟弱無力、動作緩慢、歩く時は介抱が必要、舌質淡、苔薄白、脈弦細。軽度口歪、四肢生理反射あり、病的反射みられず。血圧160/100mmHg。
印象:
(1)中医学:中風前兆
(2)現代医学:一過性脳虚血発作(TIA)
弁証:患者はそろそろ古稀で、歯は揺れ髪は抜け、天癸が枯渇し、腎気が衰えていることが分かる。これに肝腎陰虚が主体である持病の眩暈乏力加わったものと推定。肝腎は下焦に同居し、乙癸同源と言われる。腎精虧虚すなわち髄海不足で、腎陰虚弱すなわち水不涵木になり、肝陰が消耗され、陰虚すなわち陽亢し、風陽内動し、上擾清竅すなわち眩暈になり、経脈が乱され、気血の運行不暢すなわち半身無力になり、ふらふらして倒れそうになったものと思われる。『景岳全書・眩暈』曰く、「無虚不作眩,当以治虚為主,而酌兼其標。」である。
治則:醒脳開竅、疏通経絡、滋補肝腎
選穴:内関、人中、三陰交、極泉、太衝、絶骨
操作:省略
治療経過:上記選穴に対して毎日二回針刺を行った。一回目の治療後には、患者の眩暈は軽減し、三回目の治療後には、右上下肢の動きに力が入るようになり、頭暈はほぼ消失した。続けて五回治療したのち、諸症状は概ね消失、四肢の運動機能はほぼ正常化し、治療は終了した。
(つづく)
初稿2024年12月31日
最新加筆2025年1月6日
専門家向け 醒脳開竅針刺法の教授について
醒脳開竅針刺法は、中風に対する特徴的な針刺法として中国天津の天津中医薬大学第一附属医院の石学敏院士によって開発され、同医院にて研究・臨床が行われているものです。
この針刺法は、開発当時においては、特徴的な弁病弁証や、特徴的な治療方針で画期的な方法とされていました。また、初級者においては、弁病施治として中風を取り扱うことができ、熟練度に併せて弁証論治を使ってゆくことができます。その具体的な内容は、醒脳開竅、疏通経絡を総治則とし、内関・人中・三陰交がその主穴となります。それぞれの主穴に対する手技は厳格に決められています。


このような取り決めから、初級者であっても比較的容易に臨床で使用できるのですが、問題は、この「初級者」の定義です。
私は自分の先生から「最低でも1万人は看なさい」と言われました。自分が責任をもって患者さんに治療にあたる前に、助手や研修の段階で1万人は患者さんを看て勉強しなさいと言う意味です。この「1万人看る」という条件は、正直、全然高いハードルでは無いです。私が研修していた先生の所には、一日100人以上の外来患者さんが来ていました。私の研修当時は、週6日診療していたので、一週間で600人、一ヶ月を4週とするなら、一ヶ月で2400人となります。つまり一万人に4ヶ月強で達します(実際の研修では全ての外来患者さんに関われないので、仮に5割に関わっているとしても、8~9ヵ月で一万人に達します)。かつ、私の研修先は大学病院でしたので、基本的に研修生や助手は全員中医師です。もしくは、中医師相当の知識を持っている人たちです。
つまり、ここで言う「初級者」の条件は、中医師相当の知識を有し、1万人以上の醒脳開竅法使用の患者さんに関わっていること、です。
醒脳開竅針刺法の臨床使用を前提にした教授は、上述の条件を満たした人にしています。知識面の条件を満たしている人は沢山いらっしゃると思います。しかし、問題は「1万人看る」の部分です。仮に、一日10人醒脳開竅針刺法を用いた患者さんを看れたとします。週5日なら一週間で50人、一ヶ月で200人、一年で2400人です。つまり、4年以上かかってしまうのです。正直、これは現実的な期間では無いです。しかし、多くの患者さんを看て、治療を手伝って、考えないと、中風という少し難しい病証の患者さんに使用するのは、やはり少し難しいのではないか?と考えています。
この教授に対する考えは、私が先生から言われていることで、人によっては醒脳開竅針刺法の教授や臨床使用に対する考えが違うかもしれません。しかし、この考えは臨床で醒脳開竅針刺法を使用しだして15年経っても変わっていません。
醒脳開竅針刺法の紹介ではなくて、臨床で用いるための教授は上記の条件を満たす人で、かつ、私からの教授でも良いと言ってくださる方にさせて頂いています。