症状の考え方

専門家向け。経験すべき頻度の高い症状とされている、さまざまなcommon disease(常見 症状)について、東洋医学的な捉え方を含めて考え方について紹介予定。
紹介予定の内容は、症状から考慮すべき疾患(緊急性の高い疾患を含む)、常見症状の中医学としての名称と紹介、気機理論の角度から考察した症状の病機、臓腑理論の角度から考察した症状の病機、経絡理論の角度から考察した症状の病機

予定:全身倦怠感、不眠、食欲不振、体重減少・増加、浮腫、リンパ節腫脹、発疹、黄疸、発熱、頭痛、めまい、失神、けいれん発作、視力障害・視野狭窄、結膜充血、聴覚障害、鼻出血、嗄声、強痛、動悸、呼吸困難、痰・咳、嘔気・嘔吐、胸やけ、嚥下困難、腹痛、便通異常、腰痛、関節痛、歩行障害、四肢のしびれ、血尿、排尿障害、尿量異常、不安・抑うつ

東洋医学の学習

 

投稿済み
・全身倦怠感
・不眠
・食欲不振

 


【各項目の補足説明】

「考慮すべき疾患や病態」

医療現場で言うところの「レッドフラッグ」、緊急度の高い疾患や病態を把握するためものである。疾患や病態の詳細は各自学習することで、様々な思考や判断が可能になると思っている。

「中医学としての名称と紹介」

中医学における症状の具体的な内容を把握することで、現代医学や他の学問との整合性や互換性がとれるようになるために必要と考えている。

「気機理論の角度から考察した病機」

気機不全によって症状が発現するという角度から考察している。
ここでは、気機不全とは気の昇降出入不全のこととしている。つまり、治療によって、気を昇提させたり、降下させたりすることで、気機不全が改善され、症状が改善するという、角度から考察している。
鍼灸治療においては、臨床の診察として、気が上がってしまっていたり、下がってしまっていたりしていることを診察として確認し、かつ、鍼灸施術の作用として、気を上げたり、下げたり、出したり、入れたりする方法を用いて臨床に使用する。
逆に言えば、気が上がっていたりすることを診察で確認する方法が理解できていなかったり、気を上げたりする治療方法や取組み方を習得していない人には、関係のない話とも言える。

「臓腑理論の角度から考察した病機」

臓腑不和もしくは正虚邪実によって症状が発現すると言う角度から考察している。
臓腑不和とは五臓六腑の虚実によって調和が崩れている状態のこととしている。つまり、治療によって臓腑の不足を補ったり、有余を瀉したりすることで臓腑不和が改善され症状が改善する、という角度から考察している。
鍼灸治療においては、臨床の診察として、臓腑の虚実を確認し、かつ、鍼灸施術の作用として、臓腑の虚を補ったり、実を瀉したりする方法を用いて臨床に使用する。
逆に言えば、臓腑の虚実を診察で確認する方法が理解できていなかったり、臓腑を補ったり、瀉したりする治療方法や取組み方を習得していない人には、あまり関係のない話かも知れない。

「経絡理論の角度から考察した病機」

経絡不利によって症状が発現すると言う角度から考察している。
経絡不利とは主に十二経絡の流れに過不足が起きた状態としている。つまり、治療によって経絡の流れを正常化させることで症状が改善すると言う角度から考察している。
鍼灸治療においては、臨床の診察として経絡循行の過不足状態を確認し、鍼灸施術の作用として、経絡の流れを改善する方法を用いて臨床に使用する。
逆に言えば、経絡循行の過不足を診察で確認する方法が理解できていなかったり、経絡の流れを是正する治療方法や取組み方を習得していない人には必要のない話と言うことになるが、鍼灸師ならそんなことは無いはずだろう。

これらは、基本的には針刺施灸での対処を踏まえた考察のため、投薬の場合は考察は異なる部分があると思う。また、ここで紹介したものは一部のため、不明点や解釈が難しいと感じる部分は、ご自身で考えて頂ければ幸いだが、どうしてもわからないときは、ご自身の先生か師匠に尋ねることをお勧めする。理論や考察は治療を前提に考えていることが多いため、治療方法が異なれば、症状に対する解釈も変化すると思うからである。

「弁病施治の鍼灸治療」

古典に出てくる鍼灸治療を、症状に対する治療、つまり弁病施治として、鍼灸治療の例として紹介している。
弁病施治とは、ここでは、いわゆる対症療法に相当するものとしている。弁病施治に対して、理論背景を持ち、その理論背景から考えてゆくことを弁証論治と、ここでは言っている。
臨床においては、弁病施治も弁証論治も、どちらも重要であり、優劣は無く、状況によって必要な考えや手法が変化するだけである。

よく見られる臨床症状

食欲不振

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初稿2025年1月13日

「食欲不振」から考慮すべき疾患や病態

急性心筋梗塞、心不全、慢性呼吸不全、消化管出血、敗血症、糖尿病性ケトアシドーシス、副腎不全、汎下垂体機能低下症、急性腎不全、電解質異常、劇症肝炎、悪性腫瘍、希死念慮を伴ううつ病、妊娠

ポイント

食欲不振は、この症状単体では危険性のある考慮すべき疾患を判断することは難しい。しかし、上記のような疾患や病態では、食欲不振が起こることがあるので状況に応じて十分に考慮するべきである。

 

「食欲不振」の中医学としての名称と紹介

食欲不振

 

納呆(食欲不振)

食欲不振は、「納呆」と呼ばれる。類似症状に「食少」「厭食」「不欲飲食」「納谷不馨(ふけい)」などがある。
 「納呆」は、食欲が無くて腹も減らない状態だが、いわゆる食欲不振のように飲食の不振全体をさすこともある。「食少」は飲食量が減少すること、「厭食」は食べることを嫌うこと、「不欲飲食」は食べたいと思わないこと、「納谷不馨」は美味しく感じない、もしくは食欲は無いが食べられることを言う。

納呆には、肝胃不和・脾胃湿熱・胃陰虚・脾胃気虚・脾胃虚寒・脾腎陽虚・傷食などがある。
肝胃不和では、欲求不満などで肝気鬱結し、肝気が胃に横逆して発生する。
脾胃湿熱では、飲食の不節制・脂っこいものや甘いものの過食などによって脾胃を損傷したり、湿熱の邪を感受し、湿熱が中焦に蓄積して脾胃の受納・運化と昇降の機能を失調して発生する。
胃陰虚では、外感熱病の後期に、熱邪によって胃陰が消耗したために発生する。
脾胃気虚では、飲食不節あるいは労倦によって脾胃の気が傷害されて発生する。
脾胃虚寒では、体質が虚弱な人に、飲食の不節制・納涼・冷たい飲物が過ぎるなどの要因が加わって脾胃の陽虚に進行し、虚寒が生じたために発生する。
脾腎陽虚では、なま物や冷たい物の過食あるいは寒涼の薬物の過用で脾陽を傷害し、脾虚が長くつづいて腎陽に波及し、脾腎陽虚となって発生する。
傷食では、飲食物の過剰摂取あるいは消化し難いものを食べて、食滞が生じたために引き起こされる。

 

気機理論の角度から考察した「納呆」の病機

食欲は、生命活動による気の消耗を補うために発生する。

納呆は、明らかに気の消耗が認められて食欲が発生してもおかしくない状況でも食欲が発生しない、もしくは食べたくない状況と言える。ここで言う気は、水穀の精微とか穀気とか言われているものが主体である。

通常の生命活動なら気の消耗が考えられるのに、実は消耗していなかったときも食欲は発生しない。何らかの原因で気の消耗や排出が減少し、省エネ運転のような状態になり、納呆が発生する可能性がある。

似た状況に、うまく全身へ輸布できなくなっている状況も可能性がある。この場合、気の全体の消費量そのものは減少するので納呆が起こるが、心身の各部位は供給不足によってガス欠状態になる。

全身への清気の輸布は、濁気の排泄と陰陽昇降のバランスを取っているが、濁気の排泄に何らかの障害が起き、結果として清気の輸布がうまくゆかずに納呆へ至ることもある。

 

臓腑理論の角度から考察した「納呆」の病機

食欲は、気血が不足してくると神に対して食欲を起こさせる。そして、脾胃が動き消化吸収が起こってゆく。

納呆の直接的な直接的な原因は、脾虚か胃実がほとんどである。

脾虚では、運化機能の低下により飲食物の消化機能が低下して発生する。脾胃虚も脾虚胃実も起こる可能性があるが、脾虚をベースにした場合、胃の虚実はどちらでも脾虚の症状がみられる。

脾肝両虚では、肝剋脾が障害を受け、肝の抑制的な調整がうまくゆかずに、脾が亢進したり減衰したりして、脾虚を招き食欲不振にいたる。俗にいう「木克土」は肝鬱によるものとされるが、鍼灸治療の角度から考えると、肝実によって起こっているというよりも、肝の本虚標実になっていることがほとんどなので、ここでは肝虚と表現した。

胃実は、いわゆる傷食で起こる。それ以外にも、胃脘部の痞鞕が続いたのち、胃脘部の筋緊張が亢進してしまい、見かけ上、胃実に見えることがある。

脾腎両虚では、いわゆる陽虚により起こるものがそうだが、脾虚から脾剋腎で腎虚にいたり発生する。命門は全身の陽をコントロールする、つまり動きをコントロールするともいえるので、腎虚は脾虚や胃虚を悪化させる。治療では同治するのが望ましい。

 

経絡理論の角度から考察した「納呆」の病機

食欲は脾胃の経気が正常に循環していることと、その背景として腎経が正常に循環していることが必要である。

足少陰腎経が乱れると、飢不欲食が起こる。

足太陰脾経や足陽明胃経が乱れると、脾胃の動きも乱れ、納呆などの症状が起こりやすい。

 

「納呆」に対する弁病施治の鍼灸治療

(1) 百症賦
冷食不化(胃に冷えがあって、食物が消化せず、おくび(げっぷ)・食欲不振・胃部膨満感や疼痛・胸苦しさ・飲食数時間後の嘔吐など):魂門、胃兪
脾虚穀不消(脾土が虚弱で水穀の精微を運化させる機能が変調し、消化不良、食欲不振を起こすこと):脾兪、膀胱兪

2) 勝玉歌
胃冷(胃に冷えがあって、食物が消化せず、おくび(げっぷ)・食欲不振・胃部膨満感や疼痛・胸苦しさ・飲食数時間後の嘔吐など):下脘

(3) 馬丹陽天星十二穴歌
胃中寒(胃に冷えがあって、食物が消化せず、おくび(げっぷ)・食欲不振・胃部膨満感や疼痛・胸苦しさ・飲食数時間後の嘔吐など):足三里
不能食(食欲不振):通里

(4) 長桑君天星秘訣歌
胃中宿食(宿食は脾胃の運化が変調をきたしたり、胃寒によって食物が消化されず脾胃に滞積すること):璇璣、足三里

(5) 針灸配穴古代験方
胃弱不思飲食(胃弱は胃の受納・運化機能が虚弱なこと):足三里、三陰交に針灸
三焦熱邪不嗜食(三焦熱邪は心肺・脾胃・肝腎の熱と同義):関元に灸
飢不能食、飲食不下(飢餓感があるが飲食を受け付けない、飲食しても嚥下困難を起こすこと):章門、期門に針灸

 


[参考文献]
『診察エッセンシャルズ』日経メディカル開発、監修松村理司、編集酒見英太
『症状による中医診断と治療 上巻・下巻』燎原書店、趙金鐸著
『針灸配穴』天津科学技術出版社、劉天成編著

 

 

2025年01月13日

不眠

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初稿2024年12月24日
最新加筆2024年12月25日

「不眠」から考慮すべき疾患や病態

緊急を要する

希死念慮を伴ううつ病、心不全、尿毒症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)・喘息

緊急を要する訳では無いが、現代医学的介入が必要な場合がある

睡眠時無呼吸症候群、薬剤性、神経疾患、精神疾患

ポイント

不眠の判断は問診によるが、約半数に精神疾患があると言われ、また、比較的に重い内科的疾患が原因になっていることがあるため、随伴症状をしっかり確認することが大事である。

 

「不眠」の中医学としての名称と紹介

不眠(失眠)の鍼灸治療

 

失眠(不眠)

失眠とは、常に睡眠が不足することを言い、寝つきが悪い・すぐに目が覚めてなかなか寝つけない・甚しければ夜通し眠れないなどの症状も含まれる。

『内経』には「目不瞑」「不得眠」「不得臥」とあり、『難経』には「不寝」とある。『中蔵経』では「無眠」、『外台秘要』には「不眠」、『聖済総録』には「少睡」、『和剤局方』には「少寝」、『雑病広要』には「不睡」などと記載しており、通常は「失眠」と称される。

失眠には、心陰虚・心腎不交・心脾両虚・胆気虚・肝胆鬱熱・痰熱擾心・心火・余熱擾膈などがある。
心陰虚では、心陰が虚して心陽が旺盛になり、心神が不寧となるために生じる。
心腎不交では、勞倦内傷などにより腎陰が虚し、心陰を滋養できないために心火が亢盛となり、心火が腎に下交せず、心腎の水火が相互に助け合わなくなって生じる。
心脾両虚では、思慮過度・労倦などにより、心脾が損傷され、脾気虚のために気血の生化が不足して心血が補養できず、心神不安となって発生する。
胆気虚では、驚きや恐怖のために胆気が損傷し、決断ができなくなり、恐怖感があって入眠できなくなって生じる。
肝胆鬱熱では、悩みや怒りで肝の疏泄が失調し、肝鬱が続いて化火するか、酒食不節で湿熱が生じ、湿熱が肝胆に鬱滞して化火し、火熱が神明を擾乱して心神不安をきたし発生する。
痰熱擾心では、脾虚あるいは脂っこいもの甘いものの過食で湿が生じ、濃縮されて痰となるか、熱邪が裏に入って、津液を濃縮して痰が生じ、痰熱が心神を擾乱したために発生する。
心火では、心労のために心火が亢盛となり、心神が不安となって発生する。
余熱擾膈では、熱病の後期で余熱が残っている場合にみられ、熱邪が心神を擾乱することにより発生する。

 

気機理論の角度から考察した「失眠」の病機

意識の覚醒は、清陽が髄海へ上がることで起こるとされる。睡眠はその逆で、清陽が髄海から下ることから起こることになる。

失眠は髄海への陽気の供給が減少しないと発症することになる。つまり、一つは昇清降濁の制御がうまくゆかず陽気が減少もしくは下降しない。もう一つは邪気としての陽気が供給され続けている、である。

ストレスや思慮過多や視物過剰などでは、清陽が下がらない、ではなくて、清陽を下げないようにしているのかもしれない。清陽が上がり続けることで、ストレスに対応するための心や体の準備をし続けたり、多く物事を考えることが出来たり、視界を確保してちゃんと物が見えるようになったりしているとも考えられる。

また、本来昇提の力によって上へあがるべきものが、昇提の力不足によって普段から十分には上がらず、本来睡眠すべき時にも、昇提の力を上げ続けないといけない状況も考えられる。

臓腑理論の角度から考察した「失眠」の病機

睡眠は、神が夜になると陰気によって陰に隠れることによって起こり、陽気が上がってくる朝方になると覚醒する。つまり、虎の刻(陽木)になると木気の条達によって覚醒し、戌の刻(陽金)・亥の刻(陰金)になると金気の粛降や収斂によって眠気が起こってゆく。

失眠は、神が陰に隠れることができず、夜になっても(または寝ようと思っても)陽盛であるために起こる。つまり直接的には心陰虚もしくは心火実によるものである。ただし、心陰虚に対する直接的な鍼灸治療が思いつかないため、以下の病機検討では心虚として検討を試みることにする。

先ず一つ目は、心虚によるもの。心虚により心の各機能が正常に働かずに心陰虚が起こってしまう場合。

二つ目は、心腎両虚によるもの。腎剋心で表現される関係で、腎虚により心を抑制的に調整することができずに、心が亢進したり、減衰したりし、心火実や心陰虚が引き起こされる場合。

三つ目は、心肝両虚によるもの。肝生心がうまくゆかず、促進的に心を調節することができず、心虚によって失眠が起こる。

心虚では、全ての失眠が起こる可能性がある。入眠難は腎虚によるものが、早醒は肝虚によるものが比較的多くみられる。これは、寅卯の刻は早朝だし、亥子の刻は夜間だからである。

心実による失眠も考えられるが、鬱病などによる躁状態がその代表だが、一般臨床では少なくは無いが多くも見られない。心実には火旺の症状が通常みられるので、小腸実や大腸実をチェックする必要がある。

 

経絡理論の角度から考察した「失眠」の病機

経気中の衛気は、日中は眼から出て全身を巡り、夜になると足陽明経から足心へ向かい、そこから足少陰経に入り臓腑を巡る。その後、足所陰経に戻り、陰蹻脈より目に向かい、日中は眼から全身へ巡る。

足陽明経もしくは足少陰経、もしくは両方の経気が乱れると、衛気が臓腑に迎えずに不眠へ至る。

 

「失眠」に対する弁病施治の鍼灸治療

(1) 石学敏針灸学
①神門・三陰交・内関。②心兪・肝兪・脾兪・腎兪。③印堂・風池・神門。この三組を交代して使用。

(2) 針灸配穴症状治療
①瘂門・内関・神門。②神門・三陰交。③三里・三陰交。④神門・太谿。⑤百会・身柱・肝兪(灸)。

(3) 針灸配穴古代験方
驚悸不眠(些細なことに驚いて心悸亢進を起こし不安感が強くなり不眠するもの):陰交
煩不得臥(全身、特に胸部に熱感を覚えて苦悶し不眠に至るもの):陰郄

 


[参考文献]
『診察エッセンシャルズ』日経メディカル開発、監修松村理司、編集酒見英太
『症状による中医診断と治療 上巻・下巻』燎原書店、趙金鐸著
『石学敏針灸学』天津科学技術出版社、石学敏主編
『針灸配穴』天津科学技術出版社、劉天成編著

 

2024年12月24日

全身倦怠感 ― レッドフラッグも併記した中医学的病機整理と鍼灸治療

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初稿2024年11月16日
最新加筆2026年01月23日

1.症状起点としての「全身倦怠感」

― 最初に除外すべき疾患・病態 ―

■ 急性発症で緊急を要するもの
心不全、貧血、脱水、感染症、肝不全・肝炎、腎不全、副腎不全、血糖異常、電解質異常

■ 精神症状を伴い緊急性を要するもの
希死念慮を伴う鬱病

■ 診察時の重症感などから判断するもの
栄養障害、薬物・毒物、膠原病・血管炎、悪性腫瘍、甲状腺機能異常

■ ポイント
十分な問診から病的な倦怠感かどうかを判断する。
倦怠感は、多くの患者に見られるため、倦怠感という症状単独では疾患の診断は困難であり、随伴症状や身体所見が重要となる。

 


2.中医学における「全身倦怠感」の位置づけ

全身倦怠感(疲乏)の鍼灸治療

 

― 疲乏という症候概念 ―

疲乏(全身倦怠感)
疲乏とは、精神的・肉体的な疲労倦怠感を指す。
『素問・平人気象論』では「解㑊」
『霊枢・海論』では「怠惰」
『霊枢・寒熱病』では「体惰」
など、古典では複数の表現が用いられている。
急性・慢性疾患を問わず、程度の差はあるが疲乏は発生する。

 


3.疲乏の基本病態分類(中医学的整理)

疲乏には、以下の病態がある。
• 暑熱傷気
• 脾虚湿困
• 気血両虚

3-1.暑熱傷気

盛夏の暑熱の時期に発症する。
暑邪は発泄する性質を持ち、気や津液を消耗するために生じる。

3-2.脾虚湿困

疲労や飲食不節などによって脾が虚し、脾の運化が低下する。
水湿が停滞すると、湿邪の重濁性により清陽が上昇できず、全身の疲労倦怠無力感が生じる。

3-3.気血両虚

先天不足、病後、慢性病などにより気血が不足し、栄養状態が低下して発生する。

 


4.気機理論からみた「疲乏」の病機

気機の昇降出入が正常に作用することで、生理活動は維持される。
気の昇降出入が円滑であれば、各機関への気の供給は安定し、身体機能は問題なく発揮される。
生命活動により気が消費された状態が「疲乏」である。

4-1.生理的疲労と病的疲乏の境界

軽度であれば自覚症状はなく、短時間の休息で回復する。
消費と回復のバランスが崩れ、正気の虚損が大きくなると、疲れが抜けない・だるい・やる気が出ないなどの症状が出現する。
この状態が疲乏であり、身体・精神が休息を求めているサインと考えられる。

4-2.虚損がなくても起こる「疲乏様症状」

正気の虚損がなくても、気機の昇降出入が阻害されることで疲乏様の症状が出現する。
特に湿邪は粘滞の性質を持ち、全身の気機の動きを阻害することで、
あたかも正気虚損のような「だるさ」「鈍重感」を呈する。

 


5.臓腑理論からみた「疲乏」の病機

正常な生理状態とは、五臓六腑が相生相克関係を維持し、過不足なく調整されている状態である。

疲乏の原因として、
 • 五臓の虚
 • 六腑の実
が考えられる。

六腑の実は五臓の虚を伴うことが少なくなく、治療の優先順位や併用を検討する必要がある。

5-1.各臓腑と疲乏

肝虚
疏散機能低下による気の通暢不均一、蔵血機能低下による血虚血瘀が関与する。
ここでは肝虚が主、実証は従である点に注意する。

心虚
通脈機能低下による血虚血瘀、神明機能低下による精神疲乏が生じる。

脾虚
気血生化低下による気虚血虚、昇清低下による精神疲乏、脾虚困湿による湿邪の影響。

肺虚
主気作用の低下により全身性の気虚が発生する。

腎虚
陽気低下による推動・温煦作用低下、精虚による脳髄不足と精神疲乏、主水機能低下による水湿停滞。

疲乏は全ての五臓で起こり得るが、問診や随伴症状により鑑別は可能である。
長期化する場合は関連臓腑、あるいは五臓全体への治療が必要となることが多い。

 


6.経絡理論からみた「疲乏」の病機

全身が正常に機能するためには、全経絡を気血が適切な量と速度で流れる必要がある。

全経絡、あるいは多数の経絡で、
 • 経気量の不足
 • 経気速度の低下
が起こると、全身倦怠感が出現する。

6-1.足太陰脾経と疲乏

足太陰脾経の経気が乱れると、
栄養の全身輸送が低下し、四肢無力、全身沈重、力が出しづらい状態となる。

 


7.「疲乏」に対する弁病施治としての鍼灸治療

7-1.標幽賦
虚損:大陵

7-2.通玄指要賦
四肢懈情:照海
五労羸痩:足三里

7-3.玉龍賦
虚労:膏肓

7-4.百症賦
倦言嗜臥:通利、大鍾

7-5.馬丹陽天星十二穴歌
羸瘦損:足三里

7-6.行針指要歌
針労:膏肓、百労(大椎)

7-7.臥岩凌得効応穴針法賦
五労羸瘦:足三里、膏肓

7-8.針灸配穴症状治療
虚弱体質:
① 関元・足三里・命門
② 気海・足三里・腎兪
③ 気海・足三里・膏肓

7-9.針灸配穴古代験方
五労羸痩:足三里
虚労百症:膏肓、四花、膈兪

 


参考文献
『診察エッセンシャルズ』日経メディカル開発、監修松村理司、編集酒見英太
『症状から診る内科疾患』MEDICAL VIIEW、編集渡辺純夫・澤田賢一
『症状による中医診断と治療 上巻・下巻』燎原書店、趙金鐸著

 

2024年11月16日