全身倦怠感 ― レッドフラッグも併記した中医学的病機整理と鍼灸治療
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初稿2024年11月16日
最新加筆2026年01月23日
1.症状起点としての「全身倦怠感」
― 最初に除外すべき疾患・病態 ―
■ 急性発症で緊急を要するもの
心不全、貧血、脱水、感染症、肝不全・肝炎、腎不全、副腎不全、血糖異常、電解質異常
■ 精神症状を伴い緊急性を要するもの
希死念慮を伴う鬱病
■ 診察時の重症感などから判断するもの
栄養障害、薬物・毒物、膠原病・血管炎、悪性腫瘍、甲状腺機能異常
■ ポイント
十分な問診から病的な倦怠感かどうかを判断する。
倦怠感は、多くの患者に見られるため、倦怠感という症状単独では疾患の診断は困難であり、随伴症状や身体所見が重要となる。
2.中医学における「全身倦怠感」の位置づけ
― 疲乏という症候概念 ―
疲乏(全身倦怠感)
疲乏とは、精神的・肉体的な疲労倦怠感を指す。
『素問・平人気象論』では「解㑊」
『霊枢・海論』では「怠惰」
『霊枢・寒熱病』では「体惰」
など、古典では複数の表現が用いられている。
急性・慢性疾患を問わず、程度の差はあるが疲乏は発生する。
3.疲乏の基本病態分類(中医学的整理)
疲乏には、以下の病態がある。
• 暑熱傷気
• 脾虚湿困
• 気血両虚
3-1.暑熱傷気
盛夏の暑熱の時期に発症する。
暑邪は発泄する性質を持ち、気や津液を消耗するために生じる。
3-2.脾虚湿困
疲労や飲食不節などによって脾が虚し、脾の運化が低下する。
水湿が停滞すると、湿邪の重濁性により清陽が上昇できず、全身の疲労倦怠無力感が生じる。
3-3.気血両虚
先天不足、病後、慢性病などにより気血が不足し、栄養状態が低下して発生する。
4.気機理論からみた「疲乏」の病機
気機の昇降出入が正常に作用することで、生理活動は維持される。
気の昇降出入が円滑であれば、各機関への気の供給は安定し、身体機能は問題なく発揮される。
生命活動により気が消費された状態が「疲乏」である。
4-1.生理的疲労と病的疲乏の境界
軽度であれば自覚症状はなく、短時間の休息で回復する。
消費と回復のバランスが崩れ、正気の虚損が大きくなると、疲れが抜けない・だるい・やる気が出ないなどの症状が出現する。
この状態が疲乏であり、身体・精神が休息を求めているサインと考えられる。
4-2.虚損がなくても起こる「疲乏様症状」
正気の虚損がなくても、気機の昇降出入が阻害されることで疲乏様の症状が出現する。
特に湿邪は粘滞の性質を持ち、全身の気機の動きを阻害することで、
あたかも正気虚損のような「だるさ」「鈍重感」を呈する。
5.臓腑理論からみた「疲乏」の病機
正常な生理状態とは、五臓六腑が相生相克関係を維持し、過不足なく調整されている状態である。
疲乏の原因として、
• 五臓の虚
• 六腑の実
が考えられる。
六腑の実は五臓の虚を伴うことが少なくなく、治療の優先順位や併用を検討する必要がある。
5-1.各臓腑と疲乏
肝虚
疏散機能低下による気の通暢不均一、蔵血機能低下による血虚血瘀が関与する。
ここでは肝虚が主、実証は従である点に注意する。
心虚
通脈機能低下による血虚血瘀、神明機能低下による精神疲乏が生じる。
脾虚
気血生化低下による気虚血虚、昇清低下による精神疲乏、脾虚困湿による湿邪の影響。
肺虚
主気作用の低下により全身性の気虚が発生する。
腎虚
陽気低下による推動・温煦作用低下、精虚による脳髄不足と精神疲乏、主水機能低下による水湿停滞。
疲乏は全ての五臓で起こり得るが、問診や随伴症状により鑑別は可能である。
長期化する場合は関連臓腑、あるいは五臓全体への治療が必要となることが多い。
6.経絡理論からみた「疲乏」の病機
全身が正常に機能するためには、全経絡を気血が適切な量と速度で流れる必要がある。
全経絡、あるいは多数の経絡で、
• 経気量の不足
• 経気速度の低下
が起こると、全身倦怠感が出現する。
6-1.足太陰脾経と疲乏
足太陰脾経の経気が乱れると、
栄養の全身輸送が低下し、四肢無力、全身沈重、力が出しづらい状態となる。
7.「疲乏」に対する弁病施治としての鍼灸治療
7-1.標幽賦
虚損:大陵
7-2.通玄指要賦
四肢懈情:照海
五労羸痩:足三里
7-3.玉龍賦
虚労:膏肓
7-4.百症賦
倦言嗜臥:通利、大鍾
7-5.馬丹陽天星十二穴歌
羸瘦損:足三里
7-6.行針指要歌
針労:膏肓、百労(大椎)
7-7.臥岩凌得効応穴針法賦
五労羸瘦:足三里、膏肓
7-8.針灸配穴症状治療
虚弱体質:
① 関元・足三里・命門
② 気海・足三里・腎兪
③ 気海・足三里・膏肓
7-9.針灸配穴古代験方
五労羸痩:足三里
虚労百症:膏肓、四花、膈兪
参考文献
『診察エッセンシャルズ』日経メディカル開発、監修松村理司、編集酒見英太
『症状から診る内科疾患』MEDICAL VIIEW、編集渡辺純夫・澤田賢一
『症状による中医診断と治療 上巻・下巻』燎原書店、趙金鐸著