全身倦怠感

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初稿2024年11月16日
最新加筆2024年11月25日

「全身倦怠感」から考慮すべき疾患や病態

急性発症のものは緊急を要する

心不全、貧血、脱水、感染症、肝不全・肝炎、腎不全、副腎不全、血糖異常、電解質異常

緊急を要する

希死念慮を伴う鬱病

診察時の重症感などによって判断

栄養障害、薬物・毒物、膠原病・血管炎、悪性腫瘍、甲状腺機能異常

ポイント

十分な問診から病的な倦怠感かどうかを判断する。倦怠感は、多くの患者に見られるので、倦怠感という症状だけでは疾患の診断は難しく、随伴症状や身体所見が重要になる。

 

「全身倦怠感」の中医学としての名称と紹介

全身倦怠感(疲乏)の鍼灸治療

 

疲乏(全身倦怠感)

疲乏とは、精神的・肉体的な疲労倦怠感を言う。
『素問・平人気象論』では「解(かい)㑊(えき)」、『霊枢・海論』では「怠惰」、『霊枢・寒熱病』では「体惰」などと、様々な表現が用いられている。
急性・慢性疾患では、程度の差はあるが、疲乏が発生する。

疲乏には、暑熱傷気・脾虚湿困・気血両虚がある。
暑熱傷気では、盛夏の暑熱の時期に発症し、暑邪は発泄する性質があって、気や津液を消耗するために生じる。
脾虚湿困では、疲労や飲食不節などによって脾が虚し、脾の運化が低下して水湿が停滞すると、湿邪は重濁の性質を持つので、清陽が上昇できなくなり、全身の疲労倦怠無力感が生じる。
気血両虚では、先天不足・病後・慢性病などで気血が不足し、栄養状態が低下して発生する。

 

気機理論の角度から考察した「疲乏」の病機

気機の昇降出入が正常に作用することで、通常の生理活動が行われる。正常な生命活動において気の昇降出入が正常に行われると、各機関に対する気の供給が安定し、必要量の供給が行われることによって、気の過不足が過度には起こらずに、身体機能が発揮され、特に不快な感覚は起こらずに生命活動ができる。

生命活動によって気が消費された状態が「疲乏」ということになる。軽度のものであれば自覚症状は無く、軽度の休息によって回復するので疲乏という感覚は無い。しかし、消費と回復のバランスが崩れ、正気の虚損が大きくなったとき、各臓腑経絡の機能が正常に作用せず、機能不全が発生して、疲れが抜けない・だるい・やる気が出ないなどの身体や精神を動かすことを困難と感じる症状がみられる。この状態が疲乏といえる。これは、正虚を回復するために身体・精神が休息を求めているために、これらの症状を発現させ、身体や精神を使用させないようにして休息させようとしていると考えられる。

また、正気の虚損は見られないのに、あたかも虚損しているように見える場合もある。気機の昇降出入が阻害されれば、阻害される程度や部位によって疲乏のような症状が出ることが想像できるが、特に湿邪は粘滞の性質があり、全身の気機の動きを阻害し、あたかも正気の虚損のような、主にだるいといった感覚、つまり、身体や精神の動きが鈍くなる症状を呈する。

 

臓腑理論の角度から考察した「疲乏」の病機

全身の疲労感が無く正常な生理状態であるとは、五臓六腑が正常な相生相克関係を維持し、それぞれの臓腑が、過分に不足せず、過分に余剰せずに調節しあって運行している状態である。

疲乏の原因は、五臓の虚によるものと、六腑の実によるものが考えられる。つまり、どの臓腑の不調でも疲乏は起こり得るが、六腑の実は、五臓の虚が併発していることが少なくないので、どちらの治療を優先するか、併用するかを考察する必要がある。

肝虚では、疏散機能の低下による気の全身通暢の不均一から気虚気滞が発生、また、蔵血機能の不均一から血虚血瘀が発生することにより起こる。気滞血瘀による症状は、疲乏以外の症状である可能性が高いが、ここでは肝虚が主で実証が従である点に注意が必要である。

心虚では、血脈を主る作用が低下し、全身通脈の不均一から血虚血瘀が発生することによる。また、神明機能の低下により精神疲乏が発生する。前述同様に、瘀血からの症状は従であることに注意が必要。

脾虚では、気血生化の機能低下により気虚血虚が発生することにより起こる。また、昇清作用の低下により、精神疲乏が発生。また、脾虚困湿により湿邪の粘滞性によっても疲乏が発生する。

肺虚では、主気の作用が低下し、全身性に気虚が発生することで起こる。

腎虚では、陽気の減少による気の推動作用や温煦作用の低下によって発生。また、精虚による脳髄不足から神気不足を起こし精神疲乏が発生。また、主水機能の低下により水湿が発生しやすくなり、同時に疲乏も発生しやすくなる。

全ての五臓で発生するが、問診や他の症状から鑑別は難しくない。また、それぞれの五臓が相生相克しているので、疲乏が長引いているときは、関連の深い他臓も併せて治療したり、五臓全てに対して治療した方が良い場合が多い。

 

経絡理論の角度から考察した「疲乏」の病機

全身が正常に機能するには、全経絡が適度な速さと量の気血を流していることが必要である。逆に言うと、この条件を全体的に満たすことができない場合に、全身倦怠感のような状態になる。

全経絡、もしくは多くの経絡において経気の量が不足、もしくは経気の速度が遅い状態に倦怠感が起こる。

足太陰脾経の経気が乱れると、経脈が栄養を全身へ運搬させることができず四肢無力となり、全身沈重で力が出しづらくなる。

 

「疲乏」に対する弁病施治の鍼灸治療

(1) 標幽賦
 虚損(病気が長引き生気が衰え体が弱ってくるのが虚、虚が治らずに続くのが損):大陵

(2) 通玄指要賦
 四肢懈(かい)情(じょう)(虚労症などからくる、全身倦怠や四肢脱力感のこと):照海
 五労羸痩(中気不足が五臓に影響して起こる虚労症):足三里

(3) 玉龍賦
 虚労(虚労は虚損労傷の略称、先天之気や後天之気の不足による各種虚弱症状を概括したもの):膏肓

(4) 百症賦
 倦言嗜臥(モノを言うのが億劫になり、すぐ横になりたがること):通利、大鍾

(5) 馬丹陽天星十二穴歌
 羸瘦損(消化吸収機能の低下により、全身へ栄養が送られず、るい痩すること):足三里

(6) 行針指要歌
 針労(病気が長く続き体が痩せてくるのを虚と言い、虚が長く続いて好転しないものを損と言い、損が極まるのを労と言う):膏肓、百労(大椎の別名)

(7) 臥岩凌得効応穴針法賦
 五労羸瘦(五労には二つ意味があり、一つは心労損血・肝労損神・脾労損食・肺労損気・腎労損精、もう一つは久視傷血・久臥傷気・久坐傷肉・久行傷筋・久立傷骨。ここでは前者):足三里、膏肓

(8) 針灸配穴症状治療
 虚弱体質:①関元、足三里、命門。②気海、足三里、腎兪。③気海、足三里、膏肓。

(9) 針灸配穴古代験方
 五労羸痩(五臓の労損から起こる羸痩):足三里に針灸。
 虚労百症(一切の虚労疾患の意):膏肓、四花(膈兪・胆兪だが別説あり)、膈兪に灸。

 


[参考文献]
『診察エッセンシャルズ』日経メディカル開発、監修松村理司、編集酒見英太
『症状から診る内科疾患』MEDICAL VIIEW、編集渡辺純夫・澤田賢一
『症状による中医診断と治療 上巻・下巻』燎原書店、趙金鐸著

2024年11月16日