不眠

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初稿2024年12月24日
最新加筆2024年12月25日

「不眠」から考慮すべき疾患や病態

緊急を要する

希死念慮を伴ううつ病、心不全、尿毒症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)・喘息

緊急を要する訳では無いが、現代医学的介入が必要な場合がある

睡眠時無呼吸症候群、薬剤性、神経疾患、精神疾患

ポイント

不眠の判断は問診によるが、約半数に精神疾患があると言われ、また、比較的に重い内科的疾患が原因になっていることがあるため、随伴症状をしっかり確認することが大事である。

 

「不眠」の中医学としての名称と紹介

不眠(失眠)の鍼灸治療

 

失眠(不眠)

失眠とは、常に睡眠が不足することを言い、寝つきが悪い・すぐに目が覚めてなかなか寝つけない・甚しければ夜通し眠れないなどの症状も含まれる。

『内経』には「目不瞑」「不得眠」「不得臥」とあり、『難経』には「不寝」とある。『中蔵経』では「無眠」、『外台秘要』には「不眠」、『聖済総録』には「少睡」、『和剤局方』には「少寝」、『雑病広要』には「不睡」などと記載しており、通常は「失眠」と称される。

失眠には、心陰虚・心腎不交・心脾両虚・胆気虚・肝胆鬱熱・痰熱擾心・心火・余熱擾膈などがある。
心陰虚では、心陰が虚して心陽が旺盛になり、心神が不寧となるために生じる。
心腎不交では、勞倦内傷などにより腎陰が虚し、心陰を滋養できないために心火が亢盛となり、心火が腎に下交せず、心腎の水火が相互に助け合わなくなって生じる。
心脾両虚では、思慮過度・労倦などにより、心脾が損傷され、脾気虚のために気血の生化が不足して心血が補養できず、心神不安となって発生する。
胆気虚では、驚きや恐怖のために胆気が損傷し、決断ができなくなり、恐怖感があって入眠できなくなって生じる。
肝胆鬱熱では、悩みや怒りで肝の疏泄が失調し、肝鬱が続いて化火するか、酒食不節で湿熱が生じ、湿熱が肝胆に鬱滞して化火し、火熱が神明を擾乱して心神不安をきたし発生する。
痰熱擾心では、脾虚あるいは脂っこいもの甘いものの過食で湿が生じ、濃縮されて痰となるか、熱邪が裏に入って、津液を濃縮して痰が生じ、痰熱が心神を擾乱したために発生する。
心火では、心労のために心火が亢盛となり、心神が不安となって発生する。
余熱擾膈では、熱病の後期で余熱が残っている場合にみられ、熱邪が心神を擾乱することにより発生する。

 

気機理論の角度から考察した「失眠」の病機

意識の覚醒は、清陽が髄海へ上がることで起こるとされる。睡眠はその逆で、清陽が髄海から下ることから起こることになる。

失眠は髄海への陽気の供給が減少しないと発症することになる。つまり、一つは昇清降濁の制御がうまくゆかず陽気が減少もしくは下降しない。もう一つは邪気としての陽気が供給され続けている、である。

ストレスや思慮過多や視物過剰などでは、清陽が下がらない、ではなくて、清陽を下げないようにしているのかもしれない。清陽が上がり続けることで、ストレスに対応するための心や体の準備をし続けたり、多く物事を考えることが出来たり、視界を確保してちゃんと物が見えるようになったりしているとも考えられる。

また、本来昇提の力によって上へあがるべきものが、昇提の力不足によって普段から十分には上がらず、本来睡眠すべき時にも、昇提の力を上げ続けないといけない状況も考えられる。

臓腑理論の角度から考察した「失眠」の病機

睡眠は、神が夜になると陰気によって陰に隠れることによって起こり、陽気が上がってくる朝方になると覚醒する。つまり、虎の刻(陽木)になると木気の条達によって覚醒し、戌の刻(陽金)・亥の刻(陰金)になると金気の粛降や収斂によって眠気が起こってゆく。

失眠は、神が陰に隠れることができず、夜になっても(または寝ようと思っても)陽盛であるために起こる。つまり直接的には心陰虚もしくは心火実によるものである。ただし、心陰虚に対する直接的な鍼灸治療が思いつかないため、以下の病機検討では心虚として検討を試みることにする。

先ず一つ目は、心虚によるもの。心虚により心の各機能が正常に働かずに心陰虚が起こってしまう場合。

二つ目は、心腎両虚によるもの。腎剋心で表現される関係で、腎虚により心を抑制的に調整することができずに、心が亢進したり、減衰したりし、心火実や心陰虚が引き起こされる場合。

三つ目は、心肝両虚によるもの。肝生心がうまくゆかず、促進的に心を調節することができず、心虚によって失眠が起こる。

心虚では、全ての失眠が起こる可能性がある。入眠難は腎虚によるものが、早醒は肝虚によるものが比較的多くみられる。これは、寅卯の刻は早朝だし、亥子の刻は夜間だからである。

心実による失眠も考えられるが、鬱病などによる躁状態がその代表だが、一般臨床では少なくは無いが多くも見られない。心実には火旺の症状が通常みられるので、小腸実や大腸実をチェックする必要がある。

 

経絡理論の角度から考察した「失眠」の病機

経気中の衛気は、日中は眼から出て全身を巡り、夜になると足陽明経から足心へ向かい、そこから足少陰経に入り臓腑を巡る。その後、足所陰経に戻り、陰蹻脈より目に向かい、日中は眼から全身へ巡る。

足陽明経もしくは足少陰経、もしくは両方の経気が乱れると、衛気が臓腑に迎えずに不眠へ至る。

 

「失眠」に対する弁病施治の鍼灸治療

(1) 石学敏針灸学
①神門・三陰交・内関。②心兪・肝兪・脾兪・腎兪。③印堂・風池・神門。この三組を交代して使用。

(2) 針灸配穴症状治療
①瘂門・内関・神門。②神門・三陰交。③三里・三陰交。④神門・太谿。⑤百会・身柱・肝兪(灸)。

(3) 針灸配穴古代験方
驚悸不眠(些細なことに驚いて心悸亢進を起こし不安感が強くなり不眠するもの):陰交
煩不得臥(全身、特に胸部に熱感を覚えて苦悶し不眠に至るもの):陰郄

 


[参考文献]
『診察エッセンシャルズ』日経メディカル開発、監修松村理司、編集酒見英太
『症状による中医診断と治療 上巻・下巻』燎原書店、趙金鐸著
『石学敏針灸学』天津科学技術出版社、石学敏主編
『針灸配穴』天津科学技術出版社、劉天成編著

 

2024年12月24日