築架庸論(基礎治療体系)

初稿 2025年3月21日
最終加筆 2025年3月24日

第一節 総論

一. 目的

様々な鍼灸医術の、鍼灸臨床を踏まえた基礎から応用にかけた基礎理論と基礎技術の整理と編成を目指す。

ここでの提案している内容は初級者に向けたもので、すでに臨床に使えるレベルの方法論や流派の考えを運用している方は、中級者以上となるため、基本的にはここで提案している内容は既知と思われるが、主旨をご理解の上、ご一読いただけると幸いです。
→初級者などの用語の定義は「総論(リンク先に飛びます)」をご一読いただけると幸いです。

二. 思想

「到中和」。
具体的には整体性・人文性・継承性、根底哲学として易学を重視する。

三. 段階

刺針取穴弁証補瀉調気の五段階で体系化する。

(一) 刺針
刺針技術のことを指す。体系としては阿是治療を意味する。
(二) 取穴
取穴方法を指し、骨度法などによる腧穴の取穴、局所反応の触知による取穴を指す。体系としては弁病施治を意味する。
(三) 弁証
理論に基づく診断治療を指す。体系としては弁証論治を意味する。
(四) 補瀉
診断治療において治療の刺激量を状況に合わせて行う。体系としては導気治療を意味する。
(五) 調気
全体のバランスを取ることを指す。体系としては同精治療を意味する。

診察風景

 

第二節 臨床実践

一. 診察手順

立位で姿勢チェック(後ろ姿→前)
座位で姿勢チェック(後ろから)
背面から脊柱診と臓査
前面の臓査と脈診と舌診
立位(前へならえ)で上肢経絡筋力テスト(前面、後面、内側面)
立位(上肢開胸位)で上肢経絡筋力テスト(外側面)
仰臥位で経絡筋力テスト(前面、後面、内側面)
側臥位で経絡筋力テスト(外側面)
座ってもらって診察評価報告と治療方針の説明

二. 診断

(一) 姿勢について
昇提力不足によって円柱形を崩している部位はどこか?
(二) 臓腑について
臓腑の不調によって経筋腱牽引収縮を起こしているのはどこか?
経筋腱牽引収縮を起こしている部位に対応する臓腑を見つける
(三) 経絡について
経絡の阻滞によって筋力不足を起こしている経絡はどこか?
経絡筋力テストの簡易版で、筋力の弱い経絡を見つける
(四) 病位病因
中医では、「病因は、間接的に全体像を導き出すことを主とし、直接的に観察分析することを副とする。病位は、機能による定位を主とし、構造による定位を副とする。」とされる。(ちなみに、現代医学では主副が逆)
鍼灸治療は、直接身体部位に刺針施灸するため、病因も病位も主副ともに重視する必要がある。直接的な観察分析や構造に対する認識もしっかり行うことで、基本としての病位や病因や病機の判断が可能となる。
大極、臓腑、経絡ともに、病因は直接的な観察分析によるものを、病位は構造的に起きている変化を、ここの築架庸論では重視している。(臨床水準が変われば、重視するものは変わる)
(五) 診断順位(検討中)
大極理論では昇提力が不足している状態を改善する
臓腑理論では臓腑機能の不調によって起こる状態を改善する
経絡理論では経絡阻滞によって起こる症状を改善する
症状の部位がはっきりしているものは経絡理論、部位が明確に限定できないものは臓腑理論、この二点をやる前にやった方が良いのが大極理論。
三才に当てはめるなら、地利は経絡、大極は形態的バランス、臓腑は機能的バランスなので、大極は人和、臓腑は天時と言えるか?もしこの案を採用するなら、大極→経絡→臓腑の順位とする案か?

 

第三節 各論

一. 大極理論(無分流打鍼術による診断治療)

最も基本となる治療原則は、膜組織の陰性化と対応する膜組織の陽性化による問題顕現に対する、陰性化部位の陽性化と陽性部位の陰性化による昇提力の発現と問題の不顕化。
分かりやすく言うと、1>緩んでいる部位は引き締めることが出来る、2>硬い部位は緩めることが出来る、3>緩んでいる部位と硬い部位の関連を見出し、緩んでいる部位を引き締めることで、硬い部位が緩むことが、昇提力発生の現象とする、という感じ。

(一) 刺針
立ち方、鍼の構え方、木槌の持ち方、叩き方、捻り方
(二) 取穴
緩んでいる部位に対して針尖鋭で引き締める
硬い部位に対して針尖鈍で緩める
(三) 弁証
円柱形の崩れの詳細確認と円柱形復帰のための処置
緩んでいる部位と硬い部位の二点の関連性
最も緩んでいる部位から
二点打鍼法による昇提力の改善
直接緩めてはいけない硬い部位がある(大極図を見よ)

二. 経絡理論

経絡理論における、基本となる病証は、「不通則痛、不栄則痛」、「血傷為腫」「気傷為痛」、「営気虚則不仁、衛気虚則不用」であり、「血傷為腫」「気傷為痛」は実、「営気虚則不仁、衛気虚則不用」は虚とされる。
この中で、最も基本となり得る病証は「不通則痛、不栄則痛」と推測する。その仮定の上で鍼灸の基本作用は、疏通経絡と言えるだろう。つまり、あくまでも基本としては……だが、刺針施灸は経絡に対して流れを改善する作用を有するとする。これは局所も経絡の一部だが、経絡上の近隣遠方も同様に考えることができ、あくまでも理論上ではだが、施術局所の形態的変化が無くても、経絡上にその変化が出る場合もあると言うことになる。圧痛局所や硬結局所に刺針すると、施術しながら確認が出来ないので、経絡上の他部位で圧痛点や硬結を見つけた方が良いことになる。(経絡テストによると、その部位は上腕と大腿にあるか?)

(一) 刺針
切皮、刺入、手技、抜出(練架庸術をみよ)
(二) 取穴
経絡上の硬結部に刺針
経絡上の陥凹部に施灸
(三) 弁証
最も筋力低下が見られる経絡の硬結部を緩めることで、筋力回復が見られることが疏通経絡達成の一つの目安になるとする。(ここでは機能不全による確認方法は筋力低下としているが、経脈牽引による確認方法もある。前者は虚証的で、後者は実証的と理屈上では言えるが、実は同一という可能性もある)
各経絡走行上の基本病証(「不通則痛、不栄則痛」、「血傷為腫」「気傷為痛」、「営気虚則不仁、衛気虚則不用」)が、疏通経絡によって解消する。
この二点をもって、基本的な弁証論治とする。

三. 臓腑理論

鍼灸施術における臓腑理論に対する考えは、臓腑に過負荷などの不調が起こっている場合、その臓腑の形態的な周囲の筋肉などの組織が緊張傾向になる、その緊張傾向の状態を変化させると臓腑機能自体が改善傾向になる、という理論である。この周囲の反応部位を経穴では兪募穴と言っているとする。
経絡上に臓腑に特異的に作用する経穴、つまり原穴や合穴があるとされるが、経絡上の特異点は、今回ここの考察では考えない。別の機会に、経絡と経穴の考え方などで、考察できたら嬉しいと思う。

(一) 刺針
切皮、刺入、手技、抜出(練架庸術をみよ)
(二) 取穴
兪募穴周囲もしくは臓腑周囲の硬結部に刺針
兪募穴周囲もしくは臓腑周囲の陥凹部に施灸
(三) 弁証
兪募穴もしくは臓腑周囲の緊張部に対して刺針施灸することで緊張が変化し、臓腑の機能改善が見込めるとする。
各臓腑の虚実はここでは明確には考慮せず、兪募穴や臓腑周囲の緊張部の存在や、兪募穴や臓腑周囲の反応をもって、各臓腑の不調として考える。
基本は硬結には刺針、陥凹には施灸だが、どの部位に対しても施灸が効果的な場合がよく見られる。

 

2025年03月21日